アジアの課税強化、狙われる日本企業――誘致から利益争奪戦に

2012/08/03 日本経済新聞 朝刊 2ページ

 

税務リスク管理で後れ
 日本企業が進出先のアジアで思わぬ課税強化に直面する例が増えている。日本の当局にも課税されて二重課税となり、司法の場での紛争となるケースも少なくない。アジア諸国の税務当局が日本企業に照準を合わせているのはなぜか。
費用と認めず
 「合理性がなく、承服できない」。インドネシアの裁判所で、ダイハツ工業が同国の税務当局と争っている。現地の製造子会社が2年前、当局から約58億円の法人税の支払いを突然命じられたためだ。
 「子会社が本社に支払う特許使用料などの全額を費用とは認められない」――。インドネシアの税務当局は当時、それまでダイハツの製造子会社の費用として課税所得から差し引くことを認めていた特許使用料などの課税上の扱いを変更し、追徴課税した。新興国では一般に課税所得から差し引けただけに、ダイハツのほか日本企業全体で騒ぎになった。
 子会社が本国の本社に特許使用料や原材料代などを払う場合、価格が不当に高ければ、子会社の国の税務当局は課税することができる。税収の源となる所得の海外移転を防ぐための移転価格税制と呼ばれる制度だ。インドネシアが課税強化に使ったのはこの制度。先進国ではすでに一般的だが、その仕組みが新興国にも広がってきた。
 課税を巡る紛争で、企業が予期せぬ支出を迫られる税務リスク。アジアに進出した企業の間でそのリスクが高まってきたのは、新興国が自国で活動するグローバル企業の課税に目覚めたからだ。
 新興国では税制優遇による工場誘致が一巡し、税制の役割が変わってきた。市場が成熟しつつあり「税務当局が、自国で生まれた企業利益が他国に流出する状況に警戒感を強め始めている」(元仙台国税局長で明治大大学院の川田剛教授)。
 経済成長が著しい中国も状況は同じだ。2010年に中国税務当局が移転価格税制で指摘した1件当たりの平均税額は、06年比で4倍弱に増えた。今年5月、北京で開いた日中の税法専門家の研究会では、中国側が特許やブランドなどの使用料への課税制度を確立する意向を表明した。
 グローバル企業全体を標的にした課税強化だが「生産拠点の多い日本企業は狙われやすい」理由の一つはアジア域内での利益の規模にある。
 日本の主要企業130社がアジアで稼いだ営業利益は、11年3月期に日本国内の利益を上回り、過去最高となった。海外での稼ぎの一部を特許使用料などとして本社に吸い上げて日本国内に還元している。アジア各国の税務当局から見れば、本来は自国の税収を生む利益と映る。
 もう一つの理由は日本企業の場合、税務対策が手薄な中堅企業もアジアに進出していることだ。
 スマートフォン向け小型モーターを製造するシコー。上海事業所が地元税務署による移転価格税制の調査を受けている。現地子会社の利益を意図的に抑えていると疑われたためだ。シコーは地元で最大の外国企業。同社幹部は「雇用を生み出し、税務当局と関係も築いてきた自負はあったのに」と首をかしげる。
 日本企業も一部は対策に乗り出している。「税務関連のリスクやコストを減らすには、工場や開発拠点をどの国に配置するのが最適か」。日本電産は今年4月にグローバル税務企画部を新設し、戦略作りを始めた。
競争力を左右
 すでに上海や米国に専門家を配置。新興国にも人材を置く計画だ。昨年まで日産自動車で財務のプロとして活躍した佐藤明専務執行役員は「ゼネラル・エレクトリック(GE)のような税務企画部門に育てる」と話す。
 ただこうした企業はまだ少数。各国は次々と税制を変えるうえ、アジア諸国の税務の専門家は少ない。全般的に対策は追いついていないのが実情だ。新興国にも目を配った税務戦略を立案できるかどうかが日本企業の競争力を左右しそうだ。
(法務報道部 八十島綾平、証券部 中原敬太)

 

代表コメント

移転価格税制は、国と国との税金の取り合いという側面もあります。

アジアのような新興国市場での取引の場合、日本の税務当局としては、日本の技術によって獲得した利益(所得)は日本に帰属すべきとして、現地であげた利益をロイヤリティとして回収することを求めます。一方で、新興国の税務当局としては、マーケットが拡大する新興国市場において安い人件費を利用して獲得した利益であり、ロイヤリティにより親会社に利益を還流させることは認めがたい面もあります。

 

このように、各国は相反する意見を持っており、特にアジア新興国のように移転価格税制の歴史の浅い国では理論的な議論ができないケースも多くなっています。そのため、課税を受けて二重課税状態となってしまうと、相互協議を申し立てても協議が合意に至らず、二重課税を解消できない(どちらかの国で還付できない)というケースが増えています。

 

特に新興国との取引について課税をうけると、二重課税が税務コストとして残ってしまうため、事前の対策が非常に重要です。