東南ア、外資へ課税強化、グループ内の利益移転防ぐ、経済成長背景に強気。

2013/02/23 日本経済新聞 朝刊 3ページ

【ハノイ=伊藤学】ベトナムやフィリピンなど東南アジア各国が、外資系企業に対する課税強化に動き始めた。「移転価格税制」と呼ばれる制度を使い、グループ企業間の取引を通じた利益の流出を抑える。税優遇で工場誘致を進めてきたが、急速な経済成長を背景に外資との関係見直しを急ぐ。東南アジア開拓を進める日本企業の難題となるおそれもある。


 「独アディダスが利益を不当に低くして、納税を回避しているのではないか」。ベトナムの複数メディアは昨年末からこんな報道を続けている。ホーチミン市税務当局が同社のベトナム法人に対して税務調査を検討しているという。


 同国は今年夏ごろから外資系企業の納税状況を厳しく調査する。対象はグループ企業間の取引を通じて利益額を抑え、納税額を低くする手法。税務総局内に専門チームを設置した。外資系企業からの税収でインフラ整備の費用を賄う狙いだ。


 同様の動きは東南アジア各国に共通する。フィリピンは移転価格税制を今月施行した。企業間取引の際の価格を文書化し、事前に確認する制度などを定めた。企業への調査を強化する方針も打ち出している。フィリピン紙は今回の移転価格制度導入の狙いを「多国籍企業などによる策略と戦うため」と紹介した。


 インドネシアやマレーシアも移転価格税制を巡る詳細なルールを定めた。日系企業の多いタイでも年内の法制化が見込まれている。


 移転価格税制は先進国では一般的だ。これが新興大国の中国やインドに広がった。KPMG中国によると、中国での移転価格に絡んだ追徴課税額は10年で約23億元(約345億円)。直近5年間で3倍強に増えた。インドでは11年2月時点で、移転価格絡みの訴訟が少なくとも1500件あった。これが東南アジアにも波及している。


 背景にあるのは東南アジア各国の急速な経済成長だ。工場進出による雇用確保を外資に求めていたが、最近は税収源としても期待するようになった。拡大する消費市場を狙った企業進出が続き、強気に出ても外資の流出はないと読んでいる。先進国と東南アジア各国の間で税の争奪戦になっている。


 日米欧の多国籍企業は大手会計事務所などと新興国での税務対策に取りかかった。タイなどでハードディスク駆動装置(HDD)の部品工場を稼働する日本電産は昨年、グローバル税務企画部を新設した。


 東南アジア新興国は税の実務経験が不足しており、外資を標的に過大な税を課す恐れもある。「税務調査官に徴税ノルマを課している国もある」(インドネシアの日系コンサルティング会社)という。


【表】東南アジア各国で「移転価格税制」が広がっている      
   導入・規制強化した年   主な内容
シンガポール   2009年に法制化   所得税法に規定を導入
インドネシア   2011年に制度改正   ロイヤルティーの定義などルールを厳格化
マレーシア   2012年に制度改正   文書化の規定などルールを厳格化
フィリピン   2013年2月に法制化   文書化や事前確認制度を導入
ベトナム   2013年夏ごろから調査強化   調査チームを組織。事前確認制度を導入予定
タ イ   2013年にも法制化見込み   現在はガイドラインのみ
【図・写真】東南アジアに進出する企業は対応を迫られる(TOTOのインドネシア合弁会社)