移転価格検証における『ベリー比』の意義と実務上の論点

平成25年度税制改正の背景

平成25年度の税制改正で、移転価格税制における独立企業間価格の算定にあたって、いわゆる「ベリー比」(売上総利益 / 販売管理費)を使用することが認められることとなりました。もともとベリー比は、米国で行われたデュ・ポン社への移転価格課税の適否に関する裁判(以下「デュ・ポン社ケース」という)において、課税対象となったスイス子会社との取引に係る利益水準を検証する際、課税庁(IRS)側の鑑定人であった経済学者Charles H. Berry氏が提案した利益水準指標です。その後、ベリー比は米国の移転価格実務や事前確認申請(APA)などを中心に用いられるようになり、近年では専門家の間でも周知される指標となりました。以下参考として、米国における事前確認制度(APA)において用いられた利益水準指標の件数を見てみると、ベリー比は多くの事案において、実務上使用されていることが分かります。

参考:米国のAPA(利益比準法を適用したケース)において用いられた利益水準指標

Berry Ratio

こうした中2010年版OECDガイドラインでも、ベリー比が転価格検証において利用可能な利益水準指標の一つとして加えられたことから、我が国においても平成25年度の税制改正で、利益水準指標としての使用が認められることになりました。

ベリー比は、一般に販売業者の利益水準の検証に用いられるものとして知られている面がありますが、すべての販売業者の検証に適用される訳ではありません。ベリー比の適用にあたっては、今後も議論がなされることと思われますが、本稿においては、当初ベリー比が提案されたデュ・ポン社ケースを参照することで、その意義を確認し、その上で、移転価格実務での使用に関する論点として私見を述べさせて頂きたいと思います。

デュ・ポン社ケースでベリー比が用いられた背景

米国に本社を置く世界的な化学品メーカーであったデュ・ポン社は、欧州での製品販売にあたって、スイスに販売統括子会社(「以下DISA」という)を設立し、DISAに欧州市場における物流管理等を担わせていました。また、米国本社からDISA以外の欧州子会社に製品や原料を販売する場合、商流上、全てDISAを経由することとし、DISAは本社からの仕入れ販売についてマージンを計上していました。

このように形式的に欧州での全ての製品販売についてDISAを介することで、欧州での販売製品に係る利益の一部がDISAに落ちることとなっていましたが、実際の物流が通らないDISAは、擁する人員やコストに比して大きな売上と利益を計上することとなっていました。

上記取引に対し、IRSはデュ・ポン米本社からのDISAに対する所得移転であるとして移転価格課税を行い、デュ・ポン社はこれを不服として裁判を起こしました。この裁判で、課税庁側の鑑定人であったBerry氏は、DISAに配分された利益が独立企業原則に即したものであるか否かを検証することを求められました。

 

まず、上記のとおりDISAは、一般的な製品の仕入れ販売を行う販売業者とは異なり、DISAを経由して販売される製品は基本的にスイスへは輸送されず、物流上は直接欧州の関連者に届けられていました。そのため、DISAは、この棚卸資産の販売取引においては、物流管理及びインボイス処理等の業務サービスを提供しているのみでした。ここでBerry氏は、DISAの活動内容は在庫リスクを負って仕入販売を行う通常の販売業者ではなく、「物流管理等を行う役務提供者」ととらえました。

 

通常の販売業者の獲得する利益は、販売する商品の内容や販売量、すなわち売上高に比例すると考えられることから、その利益水準を検証するにあたっては、売上高に対する売上総利益の割合(粗利率)や、同じく売上高に対する営業利益の割合(売上高営業利益率)等を用いるケースが多いものと考えられます。一方で、DISAのように実質的な在庫リスクを負わず販売先も決まっているような、単純な仲介業者・役務提供者としての性格の強いと考えられる事業者について、売上高をベースにあるべき利益水準を検証すると、不合理な(DISAに過大に利益が配分される)結果となる可能性があります。つまり、DISAは、その限定的な役務活動の対価として、多額の売上総利益をサービスフィーとして得ているものと考えられました。

 

そのため、DISAのあるべき利益水準を検証するにあたり、当時も認められていた原価基準法の変形として、DISAの役務活動原価である販売管理費と、その対価と考えられる売上総利益の関係からあるべき利益水準を検討することとし、「売上総利益/販売管理費」(販管費に対してどれだけの粗利益をあげているか)の比率が用いられ、これが後にベリー比と呼ばれることとなりました。

ベリー比の意義

上記の背景からも、ベリー比の使用は、実態として役務提供者と考えられるような販売業者などの検証を行う際、原価基準法に準ずるものとして用いられるべきものと考えられます。すなわち、ベリー比の意義は、こうした役務活動の検証にあたり、その移転価格算定に係る分母(マークアップベース)に商品価値を含めないことにあると考えられます。DISAのように形式的に商流を介することで多額の売上高・売上原価が計上されるような取引においては、売上高や、売上原価を含んだ総費用に比例させてDISAの計上すべき利益を考えることは不適切であると考えられます。従って、売上原価・売上高(商品価値)を所得配分算定の際の分母には含めず、純粋な活動原価であると考えられる販売管理費と、その対価である売上総利益の関係からDISAの得るべき対価を導くことは適切であると考えられます。

 

 単純化して考えるため、DISAと比較対象となる独立の卸売業者の財務データを以下のように仮定してみます。以下では、DISAは実際の活動原価となる販売管理費に比して売上高が非常に大きい状況、一方で比較対象会社は通常の卸売業者としての人員・設備を有し、売上高に見合った販売管理費を計上しているとします。

Berry Ratio

上図の仮定値から、DISAと比較対象会社の売上高総利益率及び売上高営業利益率を比較すると、DISAは比較対象会社に比べて利益水準は高いとは判断されず、DISAの得ている利益水準は類似の独立企業よりも高いものではないように見えます。一方で、DISAは実際の活動費用である販売管理費に比べて非常に大きい売上を計上しているため、ベリー比により計算すると、比較対象会社に比べて非常に高い利益の配分を受けていることが分かります。上記の例では、DISAと比較対象会社の比較可能性の議論もあるかと思われますが、少なくともDISAは、実態の活動に比べて高い利益を計上していると判断できるものと考えられます。

DISAの例のように、売上や売上原価をマークアップベースに含めて検証することに問題がある場合には、ベリー比が有用なケースがあるものと考えられます。特に国外関連者が海外での販売活動を開始したばかりの段階などにおいては、海外の販売先は全て本社側の営業活動によって決められており、現地販社は仲介機能が主な役割といったケースも多いように思われます。そのため、特にグループ間の所得配分を司る移転価格税制での分析においては、ベリー比の利用が有用なケースもあるものと考えられます。

OECDガイドラインが求めるベリー比使用の要件

ベリー比は、使用する場面を間違うと、誤った結論を導く可能性があるため、OECDガイドラインにおいては、ベリー比の使用にあたって、以下のの事項を満たす必要があると言及しています。

 

関連者間取引で遂行された機能の価値(使用された資産及び引き受けられたリスクを考慮する。)が営業費用に比例していること

 

筆者解説

検証対象となる国外関連者の活動内容が、営業費用(販売管理費)に応じて対価・報酬の水準が決まるような活動内容である場合については、ベリー比は有用であると考えられます。通常、在庫リスクを負わない単純な仲介業などの役務提供を行う者は、売上高に応じて対価を得るというよりは、その役務活動に係る労働時間や必要人員及びその活動に係る設備費等に応じて対価を得るものと考えられ、それらの活動の結果は営業費用(販売管理費)として計上されるためです。

 

関連者間取引で遂行された機能の価値(使用された資産及び引き受けられたリスクを考慮する。)が販売された製品の価値によって重要な影響を受けていない、すなわち、売上に比例していないこと

 

筆者解説

在庫リスクを負い、自ら販売先を開拓するような販売業者については、いったん製品を買い取り、その上でリスクを負って販売活動を行うため、販売数量や取扱い製品の需給関係・市場動向によって獲得する利益も変わってくるものと考えられます。このように、検証対象となる国外関連者の活動内容が、単純に労働時間や人員に比例して対価を得る性格の事業ではなく、販売される製品の内容によって獲得する利益が影響を受ける事業である場合には、ベリー比を使用すべきではないと考えられます。このような場合には、ベリー比よりも売上高を基準とした売上高総利益率や売上高営業利益率を使用することが適切であると考えられます。

 

納税者が、関連者間取引において、その他の方法又は財務指標を用いて報酬が支払われるべき他の重要な機能(例えば、製造機能)を遂行していないこと。 

 

筆者解説

ベリー比は、「売上総利益 / 販売管理費」の式によって計算されることから、販売管理費が、当該事業者の総活動原価を表すことを前提としています。従って、国外関連者が仕入れた製品に対して何らかの加工を施すなど製造機能等を有している場合や、会計上の問題などで、売上原価の中に活動原価が含まれてしまう場合には、ベリー比を使用すると売上原価に含まれた活動原価を加味することができない可能性があります。従って、検証対象となる国外関連者がそのような機能を有している場合には、ベリー比の使用は適切ではありません。また、同様に比較対象会社の選定においても、そのような製品に対する付加価値活動を行う事業者は除外すべきものと考えられます。

 

ベリー比の製造業への応用の可能性(パススルーコストの取扱い) 

 

 ベリー比の当初の意図が、検証対象となる国外関連者への帰属利益を計算する際、移転価格算定の基準となる分母から商品価値を除外することであったことから、Berry氏は、この考え方を製造業のケースに応用できる可能性について示唆していました。この点については、OECDガイドライン(パラグラフ2.932.94)においても述べられており、利益の要素が帰属しない材料原価などのパススルーコストは利益水準指標の分母から除外すべき場合があることが述べられています。すなわち、実際の活動原価を表さないと考えられる親会社からの有償支給品原価や原材料費など、そのまま受け流される部分のいわゆるパススルーコストは、総原価基準法における総原価から控除すべき場合があるのではないかということです。特に、こうした原材料原価が総費用に占める割合が大きい場合、原価基準法等に基づいて移転価格を算定すると、上記DISAのケースと同様に過剰な利益が配分されてしまう可能性があるためです。ただ、理論的にはそのようにも考えられますが、そのコストが実際の第三者間取引においてパススルーコストとして扱われるべきものであるかのどうかの判断自体を慎重に行う必要があります。また、検証対象者(国外関連者)のパススルーコストを利益水準指標の分母(マークアップベース)から除外する場合、同様に比較対象会社のパススルーコストもマークアップベースから除外する必要がありますが、比較対象となる独立企業については原料原価等の公開情報が無いケースが多いことから、その適用可能性については限定的であると考えられます。そのため、多くの場合、製造業については、やはり総原価基準法が用いられることが多いものと考えられます。

 

比較可能性の論点と今後の実務におけるベリー比の使用にあたって 

 

Adobe裁判においては、日本法人が仲介業において得るべき対価について争われましたが、その議論の中で、役務提供者とみなされる日本法人について、比較対象会社となる類似の独立企業の公開情報は稀にしか存在しないことが言及されています。従って、日本に所在する役務提供会社に分類されるような仲介業者等については、比較対象会社を選定することが困難となることが予想されます。また、この状況は海外においても同様と考えられ、リスクを全く負わない仲介業者のような単純な業態の独立企業の公開データ(上場企業等の公開財務データ)が存在するケースは稀であると考えられます。

一方で、在庫リスクを負ったフルフレッジの販売業者や、販売業とは活動内容が大きく異なるサービス業者などを比較対象とみなして、これらの会社の財務データをもとに移転価格の算定を行うことも、比較可能性の観点から問題がある場合もあるものと考えられます。実務においては、何らかの比較対象会社を選ばざるを得ない場合もあるものと考えられますが、より比較可能性を高めるため、検証対象者と「営業費用 / 売上高」の割合が類似するような会社を比較対象として選定することで対応する方法なども考えられます

いずれにしても、今後の実務においては再販売業者等について機械的にベリー比を使用せず、検証対象となる国外関連者の活動内容及び親会社等とのリスク分担などの詳細な機能・リスク分析を行い、事実関係を明確にしたうえで、比較対象会社との比較可能性を慎重に検討することが重要であると考えられます。

また、ベリー比は利益法をベースとする比較的先進的な考え方であり、かつ算定結果として売上高の大きな販売子会社の利益率が抑えられる傾向のある指標であると考えられますが、特にアジア諸国などの比較的移転価格の歴史の浅い国などにおいては、その適用を認めないケースも出てくるように思われます。今後の実務での使用にあたっては、これらのことも総合的に勘案しつつ、使用を検討する必要があるものと考えられます。