独立企業間利益率レンジの取り扱い明確化‐フルレンジの採用‐

通常、移転価格分析の実務においては、海外子会社と日本本社との取引価格(移転価格)が適正か否かを検証するため、海外子会社の利益水準を類似の独立企業(比較対象会社)の利益水準との比較分析を行います。

 

この比較対象会社については、通常数百社の母集団の中から最終的に10社前後が選ばれることとなりますが、これらの会社の利益水準にはバラつきがでるため、これら比較対象会社の利益水準を低いものから高いものに並べると幅(独立企業間利益率レンジ)ができることとなります。

 

移転価格の実務においては、詳細な分析のうえ、この独立企業間利益率レンジを算定し、海外子会社の利益率がこの幅の範囲内に収まっていれば、原則として移転価格税制上問題がないものとして取り扱うこととなっています。この点について、過去においてはレンジ内にあったとしても一定の考慮はされるものの課税しない旨の明記はありませんでしたが、平成23年度の税制改正において、レンジ内に収まっていれば原則として移転価格課税を行わないことが通達上明記されました。

 

ただ、この独立企業間利益率レンジの考え方には諸説あり、明確化がされていなかったため、今後この取り扱いをフルレンジとする方向で明確化がなされるようです。

 

これまで移転価格の実務においては、上記の独立企業間利益率レンジの算定においては、並べられた比較対象会社の利益率のうち、上下25%づつを排除した中心の50%部分を適正な独立企業としての利益水準として見ることが一般的でした。しかし、今後は、この独立企業間利益率レンジを100%適正とするフルレンジの考え方を明確化する方向となるようです。

四分位レンジ
フルレンジ

これは、事業内容等を基準に比較対象会社を選定したとしても、表記上は分からない何らかの要因で利益率が大きく異なる会社も比較対象会社として選定されることもあるため、このような異常値を除外する意味でも上下25%部分は除外すべきという考え方が一般的で、世界的にもこの手法が一般的にとられていました。そのため、事前確認申請などにおける相互協議の場でも、このいわゆる四分位レンジ(四分位=フルレンジを25%づつ4分割すること)を基準に議論されることが多かったように思われます。

 

しかし、近年では、移転価格課税に対する税務訴訟なども多くなり、比較対象会社の選定基準が厳しくなる傾向にあるように思われます。これまでの移転価格実務においては、最終的にこの四分位レンジを作らなければならないという思惑もあり、多少の比較可能性を無視してでも4社以上の会社を無理やり選ばなければならない面もありました。また、上下25%は除外されることからも、最終選定される比較対象会社の選定基準が甘くなる傾向はあったように思われます。そのような中、裁判などにおいては、比較可能性について第三者(裁判所)が客観的な見方で見ることになるため、そのような比較対象に基づいた課税については、課税自体が違法ということで修正されるということにもなります。

 

理論的には、最終的に選定される比較対象会社は、すべて十分な比較可能性を有しているべきであり、選ばれた会社全ての利益水準が適正なものであるという前提に立つと、フルレンジの方が正しいとは思われます。納税者にとっても、レンジの幅は広いほうが運営上有利になるため、今後フルレンジが採用されることとなる点については納税者にとって有利ともとれます。

 

ただし、世界的には四分位レンジによる分析の慣行が残っている国も多いと思われ、今後数年の間は混乱も予想されます。また、フルレンジが認められるからといって、あまりに広い利益率レンジでは、選定された比較対象会社自体に問題があるとみなされる可能性があるため、実務上、最終的に選ばれる比較対象会社のフルレンジが依然より狭くなる傾向になるのではないかとも考えられます。

 

いずれにしても、しばらくの間は四分位レンジとフルレンジの両面から検討することが必要かと思われます。