移転価格文書化 ドキュメンテーションパッケージ

 これまで移転価格の文書化については、OECDガイドラインに従って各国が国内法上の規定を定めていましたが、国ごとに文書化規定が異なると、本社と子会社とで二重の文書化資料を準備しなければいけないなど、グローバル企業にとっては文書化にコストがかかる要因となっていました。

 

 また、移転価格文書化の規定が明確化されないと、納税者としても対応が進まない状況もあったことから、こうした問題に対しPATA参加国(オーストラリア、カナダ、日本及び米国)は、移転価格上の文書化に関する統一的パッケージ(以下「ドキュメンテーション・パッケージ」)を公表しました。

 

 これによって納税者は、このドキュメンテーション・パッケージに記された基準に従ったすべての文書を準備することにより、それぞれの国の法律上で要求された基準を満たすことができるようになります。

 

 今回のドキュメンテーションパッケージは、オーストラリア、カナダ、日本及び米国によるものですが、これらの国々はOECD加盟国の中でも移転価格の理論をリードしてきた移転価格先進国であり、その他の国についてもこのドキュメンテーションパッケージを参考に移転価格文書化規定を定めていくものと予想されます。また、そもそも移転価格の文書化は、自社の移転価格設定が移転価格税制に即していることを立証するための説明資料であり、国ごとに書かなければいけない内容が大きく異なることはありません。そのため、PATA参加国以外の国についても、このパッケージに従った文書を準備していれば、大きな問題は無いものと考えられます。

 

 日本に本社を置く企業にとっては、本社主導で移転価格の管理を行うことは必須の事項と思われますので、今後は海外子会社任せにするのではなく、本社側で文書化資料の準備を行い、それを現地語に翻訳する形で文書化資料の具備を行うことが適切な対応となってくるものと考えられます。

 

国税庁のホームページから公表されている「PATA移転価格の文書化に関するパッケージ」の仮訳は以下の通りです。

 

環太平洋税務長官会議(PATA)移転価格の文書化に関するパッケージ(仮訳)

1 イントロダクション

PATA参加国(オーストラリア、カナダ、日本及び米国)は、移転価格上の文書化に関する統一的パッケージ(以下「ドキュメンテーション・パッケージ」と呼ぶ)を公表する。これによって納税者は、このドキュメンテーション・パッケージに記された基準に従ったすべての文書を準備することにより、それぞれの国の法律上で要求された基準を満たすことができる。納税者によりドキュメンテーション・パッケージを利用することは、強制ではなく、PATA参加国の法律により課せられる以上の法的義務を課せられない。このことについては、それぞれの参加国は移転価格に関して異なった法律体系、法令、規則、行政慣行を有していることに留意すべきである。関連取引に関する文書化と関連する移転価格に関する自国の法律を再検討した後、PATA参加国は、多国籍企業(以下、「MNE」と呼ぶ)が、このドキュメンテーション・パッケージに包含される原則の全てに一致させることにより各PATA参加国の文書化条項を満たし、PATA参加国の管轄内の関連企業者間での文書化取引に関しては、PATA参加国の移転価格罰則の賦課を避けられることに同意する。しかしながら、このドキュメンテーションの原則を満たすことは、PATA参加国の課税当局が、移転価格の更正を行うこと、及びこの更正により利息を徴することを妨げるものではない。
 このドキュメンテーション・パッケージは、多国籍企業が複数国の行政要件と法律に適合するのは困難であるということに応えるものである。多国籍企業は、異なった課税管轄の移転価格の文書化基準に合致するために費用のかかる二重の行政要件に直面する。この統一的なドキュメンテーション・パッケージを適用する選択肢を用意することにより、納税者が効率的に有用な移転価格に関する文書を準備・保存し、課税当局の求めに応じてより迅速に文書を提出すること及び移転価格上の罰則の回避が可能になると考える。なお、このドキュメンテーション・パッケージは、OECD移転価格ガイドラインの第五章に記された文書化に関する一般原則と整合的なものとなっている。

 

2 ドキュメンテーション・パッケージ

このパッケージの適用を選択した納税者が各国の移転価格上の文書化に関する罰則を回避するためには、3つの原則を満たす必要がある。

 

①多国籍企業は、課税当局の決定したルールに従い、独立企業原則に則った移転価格の設定のために十分な努力を行うこと。

 

②多国籍企業は、独立企業原則に従った移転価格設定を行う過程で同時文書(Contemporaneous documentation)を作成し、保存すること。

 

③多国籍企業は、課税当局の求めに応じ、迅速に文書を提出すること。

 

 

以下に各基準の詳細を示す。

 

A 独立企業原則に則った移転価格設定のための努力

   最初の原則は、納税者は、独立企業原則に則った移転価格の設定のために十分な努力を行う必要がある。その努力には、国外関連取引の分析、独立の第三者間で行われた比較対象取引の選定、PATA参加国の移転価格ルール、関連条約、OECD移転価格ガイドラインに則った各国の移転価格税制に基づく合理的な移転価格算定手法の選定・適用を行うことが含まれるが、これらに限定されるものではない。

 

B 独立企業原則に従った移転価格設定を行うための同時文書

   第二に、納税者は、独立企業原則に従っていることを合理的にかつ同時に文書化する必要がある。同時文書は、関連取引の価格が独立企業間価格に沿っているかどうかを判断するのに必要な情報を納税者に提供することにより、調査過程における納税者と課税当局の助けになる。また、その文書は課税当局に国外関連取引に関する分析を行う上で有益な資料を提供し、移転価格上で生じる可能性のある争いを減少させる。また、同時文書とは、その対象となった取引が行われた時点で存在していた文書、あるいは各国の規定に基づく納税申告書の提出期限(延長が行われた場合には延長期限)までに作成された文書で、その間に生じた取引に関連する情報を含んだものをいう。

 

 ドキュメンテーション・パッケージの第二の基準を満たす文書は、別表に掲げられている。一般に独立企業原則に基づく検討は、国外関連取引に関与する関連者、対象となる取引、関連する事実、資産やリスク分析、独立の同業他者からの情報を基に 行われる。納税者は独立企業間原則に従っていることを示すため、必要に応じPATA参加国所在の関連者間取引に係る文書を準備し、保存する必要がある。ドキュメンテーション・パッケージに従って保持され、準備された移転価格文書は、納税者が合理的にPATA参加国の移転価格ルール、関連条約、OECD移転価格ガイドラインに則った独立企業間価格を算定する算定手法を適用し、選択することを結論付けた証拠を示すために、十分な内容のものでなければならない。


 多国籍企業の文書内容を検討する場合、各PATA参加国の税務当局は、すべての事実及び状況を考慮する。それには、例えば、信頼性のあるデータが合理的に適用可能か、合理的に分析が行われているか、納税者の移転価格問題の重要性及び複雑性といったものが含まれる。


 PATA参加国の課税当局は、多国籍企業の取引が独立企業間原則に則っているかどうかの検討に必要である場合、別表に掲げられてない付加的な情報を要求することができる。

 

C 独立企業原則に従った移転価格の設定が行われたことを示す文書の提出
 三番目の原則は、納税者は、このドキュメンテーション・パッケージによる罰則回避の恩典を受けるために、前述の文書を課税当局の求めに応じて迅速に提出する必要がある。PATA参加国の要求により、PATA参加国の関連ルールに一致して、課税当局に提出される必要がある。文書の提出は、それぞれの国の文書提出に関する規則に従って行われる必要がある。PATA参加国は、その国が関わる取引に関してのみ、国内法及び関連する条約によって提出されるものとして、PATAドキュメンテーションを請求できる。一般に、文書を移転価格調査の初期の段階で迅速に調査官に提出することは納税者のためにも有益である。なぜなら、法人はそれによって自らの移転価格が課税上適正であることを示すことができるからである。納税者により提出される情報の機密保持は、情報公開に関する国内法及び条約に則って保護される。

 

納税者によって提出される必要のある移転価格上の文書

PATA参加国の移転価格上の罰則規定を回避するためには、納税者は、自らが行った移転価格の設定に関する分析及び独立企業原則に従ったものであることを正確かつ完全に示すに足る質を有した文書を保存し、または要求に応じ適時に作成する必要がある。以下の文書が完全に網羅されていると考えられる。すなわち、これは、このパッケージにより移転価格ペナルティの軽減を受けさせるために必要とするものとしてPATA参加国の課税当局が考えている全ての文書を含んでいる。

 

(以下略)