移転価格課税リスクが気づかれない構造的な問題点

中堅企業にとって特有の移転価格課題

納税者が移転価格課税リスクに気づいていないケースが多い

 

移転価格税制による課税は、海外に所得を移転して税務コストを下げようという意図(租税回避の意図)があったとしても無かったとしても、結果として所得配分が不適切なものであれば課税を受けてしまいます。例えば、仮に海外子会社が日本より税率の高い国にあったとしても、海外に所得が多く配分されていれば課税の対象となります。ほとんどの税務担当者様は、租税回避の意図などありませんが、だからこそ課税を受けるなどとは想像もしていないケースが多いものと思われます。例えば、海外子会社からロイヤリティを受け取っている場合、特に自動車部品業界などでは業界の慣習として第三者間でも3%のロイヤリティ料率を設定しているケースが多いことから、それを参考に海外子会社からのロイヤリティを3%以上で設定していれば、「十分に回収している」と安心している企業も多いように思われます。しかし、移転価格税制のロイヤリティ料率の算定方法に従った結果、例えば「10%のロイヤリティ料率が適正である」という算定結果になる可能性もあり、業界の慣習に従って価格設定を行っていても、移転価格税制に即しているとは言い切れないということを認識する必要があります。

 

また、移転価格税制の恐いところは、企業の税務担当者だけでなく顧問税理士も移転価格課税のリスクを認識していないケースが非常に多いということです。なぜそのような状況が起こってしまうかというと、通常、税務申告業務を請け負う顧問税理士は会社から伝えられた会計情報が適正あることを前提として税務申告書を作成しますが、「移転価格」が適正か否かという問題はこの会社から報告される会計情報(日本法人の損益)そのものが適正か否かというものです。顧問税理士の立場からすると、会社の会計情報に問題がある場合は自分の責任では無いと考えているため、税務申告業務の範囲内においては海外法人との所得配分が適性であるか否かというところまで考えが及ばないケースがほとんどだと思われます。一方で、企業の税務担当者は、顧問税理士が見ているのだから、問題があれば指摘をしてくれるだろうと思っているケースが多いように思われますが、現実には上記のとおり顧問税理士が会社の会計情報が適正であることを前提としているうえ、移転価格税制に精通している税理士自体が非常に少ないというのが実情です。このように、移転価格の問題は、企業の税務担当者と顧問税理士との間で、お互いに相手側で適正に行っているだろうという誤認があるため、誰も課税リスクに気づかないという状況が生まれやすいものと考えられます。

 

しかし、移転価格税制は過去6年分を遡って一度に課税できることから課税金額が大きくなるケースが多く、特に中小・中堅企業にとっては投資計画や資金繰りに影響を与えるケースもあるため、「知らなかった」では済まない状況も予想されます。これからは、申告業務を担当する顧問税理士も中堅企業の税務担当者も、まずは移転価格税制の概要を理解し、自社にも課税リスクがあるのだということを認識するところから始めることが重要であると考えられます。

 

「配当で利益を回収している」という誤認

 

移転価格税制がグループ内の所得配分の問題を扱う税制だと認識されている税務担当者様から「移転価格については、我が社は海外子会社から配当で十分な利益の回収をおこなっています」という声をお聞きすることもありますが、これ全くの誤認です。移転価格税制は、最終的な目的としては国際間の所得配分を適正化することではありますが、あくまで海外子会社との各取引における価格を独立企業間で成立しうる価格に設定することが求められます。すなわち、原則として取引ごとに適正な価格設定を行わなくてはなりません。配当は出資に対する利益処分であり、事業上の取引における対価の受け取りとは全く別のものですので、配当で利益の回収を行っていたとしても取引価格の設定に問題があれば当然課税対象となり、税務調査においては何の抗弁にもなりません。特に近年では配当の益金不参入制度が導入され、海外子会社から配当を回収しても日本で納税はされないため、税務当局としては事業取引の中で対価回収をせずに配当金で回収する行為に対して特に目を光らせているので注意が必要です。

 

中堅企業にとっての移転価格課税の問題点

 

例えば日本で移転価格課税を受けた場合、既に海外子会社所在国で税金を納めた所得に対して日本でもう一度税金を課されることになるため、いわゆる「二重課税」の状態となります。このように二重課税状態となった場合、日本の税務当局と海外子会社所在国の税務当局の間で国家間協議(相互協議)により二重になってしまった課税所得についてどちらの国で税金を納めるべきか協議し、両国が合意すればいずれかの国で納めた税金の還付を受けることができます。大企業が数億円から数十億円の追徴課税を受けた場合では、通常この相互協議を行うことで二重課税を解消することになりますが、この相互協議が合意に至るまでには2年ほどの歳月がかかるということと、現実的には日本と相手国の両国で専門家のサポートが必要となるため、外部コストだけでも数千万円以上かかるケースが多いものと思われます。追徴課税の金額が数億円以上の場合には、コストと歳月をかけてでも相互協議を行う経済的なメリットがありますが、数百万円から数千万円の追徴課税を受けた場合、相互協議を行っても還付税額が対応コストに見合わないケースが多いものと考えられ、小規模取引において二重課税を解消することは現実的には難しいものと考えられます。一方で数百万円から数千万円の追徴課税というと中堅企業にとっては大きな金額なので、いかに課税を受けないように対応するかがより重要になるものと考えられます。

 

新興国取引の増加と移転価格問題の深刻化

 

 近年では先進国のマーケットは成熟し、人口の増加・マーケットの拡大が見込まれる新興国での子会社設立や追加投資が増えているように思われます。一方でインド、東南アジア、南米、アフリカなどの新興国は、移転価格税制の歴史・経験が浅い国も多く、租税条約の整備が十分で無いなど制度的にも未熟な国が多いのが実情です。また、技術を持つ日本を含めた先進国と、資源・人口を持つ新興国とでは考え方が大きく異なる面もあり、いずれかの国で移転価格課税を受けた場合、相互協議を行っても話がなかなかまとまらないケースが多くなっています。相互協議は納税者が申し立てをすれば受け付けてはくれるものの、合意する義務はなく、特にこのような新興国との協議は合意できる可能性が高いとも言い切れないため、特に新興国子会社との取引で移転価格課税を受けた場合には二重課税が解消できるとは限らない点に留意が必要です。

 

合弁子会社と移転価格

 

 中堅企業の海外進出にあたっては、現地パートナー等との合弁会社を設立するケースも多いように思われます。日本の移転価格税制の課税対象は、50%以上の資本関係を有する国外関連者との取引であるため、100%所有子会社でなくとも課税の対象となります。合弁パートナーがいる場合、特に海外子会社の利益率を下げるような取引価格の変更が難しくなるケースが多いため、移転価格の整備が遅れる傾向にあります。後で問題にならないよう設立段階で移転価格の設定方法を合弁相手と話し合っておく、又は設立後でも移転価格税制に即した所得配分を行うよう理解を求めていくことが重要であると思われます。合弁会社だからといって誤った所得配分を続けていては、課税リスクを負い続けることになるため、問題を放置せず、できるだけ早い段階で所得配分を見直していくことが重要であると考えられます。