税務署による海外取引法人への調査・課税の動向

-税務署所管法人の約7割が海外取引において課税を受けている実態について-

月刊国際税務 2013年3月号への掲載記事

GMT移転価格税理士事務所

代表パートナー 田島 宏一

 

今般の東京国税局の発表によると、平成23事務年度の税務署所管の海外取引法人に対する調査件数は、6,284件となっており、前年の3,576件に比べて大幅に増加する結果となりました。日本企業の海外取引の増加と、それに対応する国際税務専門官の増加により、今後も調査件数は増加する傾向は続くものと考えられます。

ここで着目すべき点として、税務署所管法人に対する調査における更正・決定等の割合(非違割合)の高さがあります。平成23事務年度の6,284件の調査のうち、実に4,323件、割合にして約68.8%の企業が更正・決定を受ける結果となっています。この非違割合の高さは、過去から慢性的にみられるものであり、税務署所管法人(資本金1億円以下の法人)については、毎年7割強の法人が調査において課税を受けています。

比較のため、資本金1億円以上の大企業を対象とする国税局所管法人の調査件数を含む国税庁発表資料から、海外取引法人に対する調査・課税の実績を見てみると、平成23事務年度の調査件数は15,247件、うち更正・決定等を受けた法人は3,666件、割合として24.0%の法人が更正・決定等を受ける結果となっています。これも決して低い数字ではありませんが、税務署所管法人の非違割合と比較すると、やはり海外取引経験の長い大規模法人については、国際税務への対応も相対的には進んでいるものと考えられます。

これらの統計企業からも、特に中小・中堅企業においては、国際税務への対応が遅れていることが明らかです。特に近年では、多くの企業において海外市場での展開が経営課題となっているものと思われますが、海外展開にあたっては国際税務の問題を避けては通れないということを十分に認識し、調査・課税を受ける前に対応を取るべきと考えられます。

 

税務署所管法人が海外取引において課税を受ける事例

 

税務署所管となる企業においては海外子会社設立から間もない企業も多いものと思われます。こうした企業では、現地法人の人材も限られる面があり、本社からの主張・出向により現地法人の支援がなされることが多くなりますが、これら出張・出向による支援活動に係る人件費・旅費等が本社負担のままになっているケースでの課税事例が多いように思われます。

 

海外子会社への支援にあたっては、その目的が海外子会社の売上の獲得、利益の計上に紐づくものであれば、その海外子会社は経済的な便益を受けているため、当然対価を支払う必要があります。そのような支援に対して本社が対価の回収を行っていなければ、日本の課税所得の海外への流出となるため、移転価格税制に従って適正な対価設定を行わなければ、調査において課税の対象となります。特に海外子会社の利益が出ていない期間においては、できるだけ費用を本社負担にしてしまう企業が多いように思われますが、グループ間での取引においても、両者の受益関係を明確にし、現地法人が受益者となる場合には、相応の対価を支払う必要があります。

 

また、日本で製造した製品を海外の販売子会社を介して販売するような場合、海外子会社への支援は日本本社の売上のためであるとも考えられるため、出張に係る対価を取る必要は無いのではないかというご質問を受けることもあります。確かに、海外子会社への支援業務においては、相互の便益となる面もありますが、海外子会社にとってその支援が無ければ第三者に支援を依頼せざるを得ない状況であるとすると、やはり対価の支払いをすべきものと考えられます。本社側にとっても、当該支援によって損失を負うべきではないと考えると、移転価格税制に当てはめれば、少なくとも当該出張に係る総原価は回収しなければならないものと考えられます。移転価格税制は、原則として取引単位で対価を検証するため、支援業務に対する役務提供対価の問題と、製品の販売に係る対価の問題は分けて考えるべきかと思われます。

 

上記のような出張等による支援のほか、本社側で管理業務を代行しているようなケースなども、やはり現地法人が経済的な便益を受けているので、相応の対価を回収する必要があります。いずれにしても、基本的に海外子会社との全ての取引において、移転価格税制に従って適正な対価設定を行っていかなければ、課税の対象となるというリスク認識を持つことが必要です。

 

税務署所管法人に対する調査の特徴

 

税務署所管の海外取引法人の調査にあたっては、主に源泉所得税と移転価格税制に関するものが中心になるものと思われますが、本稿では、主に移転価格税制に関する調査について、筆者の税務調査対応での経験則から、国税局所管法人への調査との比較のもと、税務署所管法人への調査の特徴を私見にて述べさせて頂きます。

まず、大規模法人を対象とする国税局所管法人の移転価格調査にあたっては、海外取引の規模も非常に大きいケースが多いため、課税判断を行うにあたっては、入念な事実関係の確認と、慎重な課税判断が必要とされます。このような大規模な海外取引においては、わずかな対価設定のズレが多額の所得移転となることもあるため、所得移転の蓋然性の判断自体にも時間がかかり、調査の期間は長くなるケースが多く、少なくとも半年から2年程かかるものまであります。

 

一方で税務署所管の税務調査においては、税務署の国際税務専門官の数も限られることから、より多くの納税者の適正な納税を促すためには、効率的に調査・課税処理を進めていくことが求められるものと思われます。もちろん、税務署所管法人においても移転価格の整備がなされていない場合、海外子会社との有形資産取引価格の設定や技術供与に係るロイヤリティ料率などが厳しく調査されることとはなりますが、特に上記のような出張支援に係る対価の未回収や本社サービスの対価の未回収など、明らかな経済的な利益の供与とみなされる取引について早期に寄附金として課税処理されるケースが多いように思われます。(移転価格税制と寄附金課税の関係に関しては本誌20132月号「中堅企業にとっての移転価格税制と寄附金課税」にて記載。)

 

国税局所管の大規模法人においては、ある程度移転価格の整備の進んだ面があり、移転価格課税の内容も、正に「税務当局との見解の相違」による課税の割合が相対的に多いように思われますが、税務署所管法人による課税おいては、移転価格の未整備、明らかな対価の未回収の企業に対するものが多いものと思われ、それが上記の調査実績における非違割合の高さに表れているのではないかと考えます。特に今後の成長が見込まれる中堅企業においては、より円滑な海外展開を進めるためにも、調査・課税を受ける前に移転価格税制・国際税務への対応を取ることが望まれます。