税源浸食と利益移転(BEPS)への国際対応の動向

特集――攻防最前線、OECD租税委員会議長浅川雅嗣氏(Taxウオーズ)

2013/09/03 日本経済新聞 朝刊

課税回避防止 15年までに国際指針〓〓3氏に聞く


OECD租税委員会議長(財務省総括審議官) 浅川雅嗣氏
効果的なルールは 企業の進出先で課税拡大


 日進月歩のグローバルな経済活動にどう課税すべきか――。先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)は、企業の課税回避を防ぐ国際指針作りに着手した。富の分配を巡る国と企業の攻防の行方について内外の専門家や経営者に聞いた。(1面参照)
 ――経済協力開発機構(OECD)が企業の過度な節税を防ぐための行動計画をまとめた経緯は。


 「これまでの国際課税ルールは企業や個人が実際に利益を上げた国(源泉地国)での課税を抑え、本社などがある居住地国で広く課税することを認める方向で進んできた。企業の進出を促し、資本の流れや人的交流を加速する狙いだった」


 「ふと気付くと、2つの問題が出てきた。一つは源泉地国にも居住地国にも税金が落ちない『二重非課税』の問題。国境を越える電子商取引が広がり、企業の経済活動に応じた税金をかけられない事態も目立ち始めた。こうした問題をふまえ、国際課税ルールを全面的に見直そうと始まったのが、税源浸食と利益移転(BEPS)という今回の計画だ」


 ――電子商取引への課税強化や知的財産権の移転ルールといった15の項目に最長2年半で結論を出す計画ですね。


 「6月の主要国(G8)首脳会議で注目を集めたのも、リーマン・ショック後の財政悪化や所得格差の拡大で、不公平な課税を政治的に放置できなくなったことが背景にある。政治的なモメンタム(勢い)を失わないうちに結論を出していきたい」


 ――法人税率の引き下げは議論の対象にしないのですか。
 「行き過ぎた法人税率引き下げが、各国の経済にとって無害ではないという意識は共通している。ただ、課税権は国家主権の最たるものだ。法人税率の違いがゆがみを生んでいるのは確かだが、税率を一律にするのは現実的な選択肢ではないだろう。国家主権の下で各国が決めるそれぞれの税率を前提に、弊害を最小限にするルールをつくろうという趣旨だ」


 ――OECD非加盟国の中国やインドにも議論参加を呼びかけました。
 「加盟国と平等な発言権や投票権を与えるなど、これまでにない試みだ。中国やインドはグローバルな経済活動に乗り出している。新興国で活動する外資系企業への課税をある程度認めることも彼らの利害に反しない。新興国を巻き込まなければ、国際課税の問題は解決できない時代になっている」


 ――新ルールの実効性をどう確保しますか。
 「OECDは各国にルールを強制できる組織ではない。是正を求める勧告を出すところまでだ。各国はその勧告に従って国内法や租税条約を改定することになる。従えない事情があるなら、その国にOECDの作業部会で主張してもらい、最大限共有できるルールをつくる」


 ――タックスヘイブン(租税回避地)などの参加国以外と協調しなければ抜け穴は残ります。
 「OECDのルールを非加盟国にも呼びかけ、国際標準としてきた。様々な枠組みを通じて、OECDに加盟しない新興国との連携を拡大し、国際課税のゆがみを是正していくべきだと考えている」


 国内法や条約改正を各国に勧告するが、強制力はない。グローバル経済の構造変化をふまえ、中国やインドなどOECDに加盟していない新興国にも参加を促す。
 あさかわ・まさつぐ 1981年東大経卒、旧大蔵省(現財務省)入省。国際局や主税局経験が長い。麻生内閣で首相秘書官を務めた。2011年6月、経済協力開発機構(OECD)租税委員会の議長に日本人として初めて就任した。静岡県出身、55歳。