Taxウオーズ(上)企業と国、奪い合う富、国境またぐ節税拡大。

2013/06/30 日本経済新聞 朝刊

富の再配分か、それとも活力か――。税(Tax)のかたちは経済社会の永遠のテーマだ。いま、財政赤字にあえぐ国家は課税強化に動き、企業は成長へ守りを固める。経済のグローバル化が加速するなか、税を巡る攻防「タックスウオーズ」が激しさを増してきた。
 6日、ベトナムの首都ハノイ。米飲料大手コカ・コーラのイリアル・フィナン上級副社長は同社現地法人の説明に追われた。設立から約20年。同法人は企業の利益にかかる法人税を一度も払っていない。


コーラ不買運動
 「生産効率が悪く、利益が出ない」というのがフィナン氏の説明。急きょ同国を訪れたのは交流サイト「フェイスブック」を通じ、コカ・コーラの不買運動が広がったためだ。その流れは、税逃れではないかとの世論が政治を動かし、自主的な「納税」を迫られた米コーヒーチェーン大手スターバックスの英国法人と重なる。


 米アップルや米グーグル……。グローバルに活動する巨大企業の納税額の少なさに批判が集まっている。実際、税引き前の利益に対する法人税の負担割合を示す税負担率でみると、グーグルは19%。米国の法人実効税率(約40%)を大きく下回る。


 からくりの舞台はアイルランドだ。首都ダブリンの港湾に近いオフィス街。そこにグーグルのグループ会社がわずか約500メートルの間に2つある。会社Aはカジュアルな服装の技術者が行き交ういつものグーグルだが、もう一つの会社Bは登記だけ。登記上の住所には弁護士事務所があり、グーグルの特許などをタックスヘイブン(租税回避地)である英領バミューダから管理している。


 実体のある会社Aは事業収入の一部を特許使用料などとして会社Bに払う。Bはバミューダに本籍のある会社の外国法人の形を取っているため、アイルランドの税法では課税対象にならない。グーグルは、利益の一部を合法的にバミューダに逃がしている形だ。


 「ダブル・アイリッシュ」。こう呼ばれる同社の節税手法は、多国籍企業の税務担当者の間では常識だ。程度の差こそあれ、多くの企業が税率の低い国や地域に利益を集め、全体で税負担が軽くなる税務戦略の巧拙を競う。例えば利益への知的財産の寄与度が高い製薬業。日本企業の税負担率は30%台が多いが、米ファイザーやスイス・ノバルティスはほぼ10%台だ。


緊縮で課税強化
 だが財政緊縮が重要課題になった欧米では、失業増に苦しむ国民への人気取りもあって、議会がこうした企業の節税をやり玉に挙げ始めた。米国の公開企業上位100社のうち、タックスヘイブンを利用する企業は83社。グーグルのエリック・シュミット会長は「革新や成長、雇用を阻害する」と課税強化をけん制する。


 各国の税務当局が運用を強化しているのは、企業がグループ内取引の価格を操作し、利益を他の国に移すことを防ぐ移転価格税制だ。オーストラリアは7月から、企業のグループ内の取引価格が妥当かを見る際、粗利や利益水準も税務調査の対象にする。


 ただ同税制は取引価格の妥当性を巡って、企業と税務当局の見解が食い違いやすい。主要8カ国(G8)首脳会議が税逃れ防止を宣言したのを受け、経済協力開発機構(OECD)は7月に移転価格税制のガイドラインの改訂版を発行するが、適用の細目は各国に任される部分も大きい。企業と国の富の奪い合いは、各国間の税の奪い合いにも広がる雲行きだ。


 ▼移転価格税制 本社と海外子会社との取引など、内部で国境を越えた取引をしている企業に対し、適正に課税するための制度。内部での取引が適正な価格で行われているかどうかを税務当局が確認する。


 例えば適正価格100円の部品を海外子会社から高めの110円で買った場合、差額の10円分の所得が海外に移ることになる。移転価格税制ではこの差額分に対して本国が課税する。海外子会社の収入に外国政府が課税した場合、差額分には二重課税が生じる。このため国家間で交渉を通じた調整も必要になる。


 法人税率の低い国や地域の子会社に所得を移し、グループ全体としての税負担を軽くしようとする企業が増えており、適正価格の算定などを巡って企業と国が争うケースが目立っている。