移転価格解説

中国の移転価格税制

近年の動向

中国

2022年11月29日更新

中国においても引き続き移転価格については高い関心を示しており、近年ホットトピックとなっている。 APAの申請件数も引き続き増加傾向にあり、体制の強化を図っているが、関連規定整備後においては新規定に基づく移転価格対応の強化が図られることが見込まれ、納税者に相当の準備が求められることになることが予想されている。                               

 

基本情報

①税務当局

国家税務総局(State Administration of Taxation, SAT)を中心に、各省の税務当局により移転価格税制の執行が行われている。

②移転価格税制の対象取引

25%以上の株式につき直接・間接の保有関係のある関連者との取引。

また、実質的に支配関係にある場合にも課税対象となる可能性がある。

③文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

【Ⅰ.国別報告書】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業は国別報告書を作成する義務がある。

    ①当該企業が企業グループの最終持株会社であり、且つ前年度の連結収入が55億人民元(約880億円)超

    ②企業グループにより報告者として指定された事業体

  • 対象初年度:2016年
  • 期限:対象年度の翌年5月までに提出。
  • 使用言語:中国語、英語
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を認めている。代理提出企業は税務機関に最終持株会社の企業名を翌年5月に提出されるRTP Formにて報告。
  • ペナルティー:提出しなかった場合、提出した情報が著しく不完全・不正確な場合などにあり(~5万人民元)

【II.マスターファイル】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はマスターファイルを作成する義務がある。

    ①国外関連取引を行っており、且つ当該企業が所属する企業グループの最終持株会社がすでにマスターファイルを作成している

    ②年度の関連者間取引総額が10億人民元(約160億円)超 ※国内関連取引のみは免除

  • 対象初年度:2016年
  • 期限:会計年度終了から12か月内に準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • 使用言語:中国語
  • ペナルティー:規定違反などの場合にあり(~5万人民元のペナルティのほか、追徴税額(発生した場合)のプライムレート+5%の利子税相当額のペナルティ)
  • マスターファイルの義務はBEPS Action 13のガイダンスを反映している。追加条件として国別報告書の提出者の企業名、所在地を報告する義務がある。

【III.ローカルファイル】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はローカルファイルを作成する義務がある。

    ①年度の関連者間有形資産取引額が2億人民元を超えている場合

    ②年度の関連者間金融資産取引額が1億人民元を超えている場合

    ③年度の関連者間無形資産の所有権譲渡金額が1億人民元を超えている場合

    ④その他の関連者間取引額が4,000万人民元を超えている場合

  • 対象初年度、使用言語、ペナルティーは、マスターファイルと同じ。対象年度の翌年6月30日までに準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • BEPSローカルファイルの項目に加えてバリューチェーン、ロケーションセービングス等の中国独自の分析・記載要請あり。

⑤移転価格算定方法

CUP法、再販売価格基準法、原価基準法、TNMM、利益分割法及びその他の方法が認められている。

⑥比較対象会社の選定

中国の企業が望ましいが、中国限定では選定できない場合、汎アジア地域などに対象を広げることも認められる。

⑦移転価格課税の時効

取引が行われた年度から10年間

⑧罰則等

延滞税として中国人民銀行のRMB貸付基準金利+5%が課される。 但し、移転価格関連情報の開示フォームの提出があり、同期文書の準備がある場合、+5%の延滞税が免除される可能性がある。

⑨相互協議・APA

現在申請件数が増えているものの、処理が追いついていない。 制度的にはユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAともに可能であるが、合意に至るには困難が予想される。