移転価格解説

税務署所管法人に対する調査の特徴

税務署所管の海外取引法人の調査にあたっては、主に源泉所得税と海外寄附金制度・移転価格税制に関するものが中心になるものと思われますが、ここでは主に移転価格税制に関する調査について、弊所の税務調査対応での経験則から、国税局所管法人への調査との比較のもと、税務署所管法人への調査の特徴を整理してみます。

まず、大規模法人を対象とする国税局所管法人の移転価格調査にあたっては、海外取引の規模も非常に大きいケースが多いため、課税判断を行うにあたっては、入念な事実関係の確認と、慎重な課税判断が必要とされます。このような大規模な海外取引においては、わずかな対価設定のズレが多額の所得移転となることもあるため、所得移転の蓋然性の判断自体にも時間がかかり、調査の期間は長くなるケースが多く、半年から2年程かかるものまであります。

一方、税務署所管の税務調査においては、税務署の国際税務専門官の数も限られることから、より多くの納税者の適正な納税を促すためには、効率的に調査・課税処理を進めてインセンティブが働くものと想像されます。

もちろん、税務署所管法人においても移転価格の整備がなされていない場合、海外子会社との有形資産取引価格の設定や技術供与に係るロイヤリティ料率などが厳しく調査されることとはなりますが、特に出張支援に係る対価の未回収や本社サービスの対価の未回収など、明らかな経済的な利益の供与とみなされる取引について早期に寄附金として課税処理されるケースが多いように思われます。

国税局所管の大規模法人においては、ある程度移転価格の整備の進んだ面があり、移転価格課税の内容も、「税務当局との見解の相違」による課税の割合が相対的に多いように感じます。

一方、税務署所管法人による課税においては、移転価格の未整備、明らかな対価の未回収の企業に対するものが多いものと思われ、それが調査実績における非違割合の高さに表れているのではないかと考えられます。特に今後の成長が見込まれる中堅企業においては、より円滑な海外展開を進めるためにも、調査・課税を受ける前に移転価格税制・国際税務への対応を取ることが望まれます。

文責:西村憲人