無形資産をめぐる当局との見解の相違
移転価格税制上の無形資産
所得の配分を考えるにあたっては、無形資産の所在が論点となることが多いです。特に一般的な同業者では得られないような多額の利益や高い収益性を実現している場合には税務当局と納税者との間で見解の相違が生じやすく、その論点が無形資産に求められるケースは枚挙にいとまがありません。
その背景の一因は、利益の源泉となる無形資産の定義があいまいであり、解釈によって異なることにあります。
日本の移転価格税制上、無形資産については、以下の通り定義されており、広くとらえています。
措置法通達66 の4(8)‐2
無形資産とは、有形資産及び措置法令第39条の12第13項第2号に規定する金融資産以外の資産で、その譲渡若しくは貸付け(資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合にその対価の額が支払われるべきものをいうのであるから、例えば、次に掲げるものはこれに含まれることに留意する。(令元年課法2-10「三十八」により追加)
(1) 令第183条第3項第1号イからハまでに掲げるもの
(2) 顧客リスト及び販売網
(3) ノウハウ及び営業上の秘密
(4) 商号及びブランド
(5) 無形資産の使用許諾又は使用許諾に相当する取引により設定される権利
(6) 契約上の権利((1)から(5)までに掲げるものを除く。)
ここで、重要なのは移転価格上問題となる無形資産は、あくまで対価性がある無形資産に限られている点です。事業上重要な価値を有するか否かは、企業グループの活動内容や属する市場の状況によって大きく異なります。例えば、精密部品や機械などのテクノロジー産業においては、より高い技術力による付加価値の高い製品ほど高い価格で販売することが可能となるため、特殊な技術の特許や技術ノウハウは重要な価値を有する場合が多いと考えられます。一方で、アパレル業界や化粧品業界などでは、技術的な面にそれほど価値が無い場合もあり、むしろ広告宣伝によるブランディングや商標等の方が重要な価値を有するケースが多くみられます。従って、個々の事案について、開発に係る知識やノウハウ、広告宣伝活動等が「重要な価値」を有するものであるか否か、独立企業間であれば対価をとるべきものであるか否かを詳細に検討する必要があります。
移転価格税制においては、無形資産の実質的な所有者に、当該無形資産の使用により生じた超過利益が帰属することとなるため、税務調査においては、当該無形資産の所有者がどの法人であるのかについて、企業グループの活動実態から判断していうこととなります。そのため、実態をしっかりと把握したうえで、無形資産の帰属関係について、具体的な根拠に基づいて説明できるようにすることが当局との見解の相違を避けるうえで重要になります。さらに踏み込んで言えば、グループ内で統一的な見解を準備するとともに、それに整合する移転価格設定方針を定めておくことが重要になります。