移転価格解説

委託開発取引の移転価格

委託開発により、開発活動を行う者と費用の負担者が異なるケースがあります。

移転価格は実態を重視しますので、単純な費用の付け替えだけで、無形資産の所有者を操作すること、具体的には(低税率国の)費用負担者を無形資産の所有者と位置付けて多くの所得を当該負担者に帰属させるような対応は認められません。

一方、独立企業間取引においても、委託開発取引として費用の負担者が開発された無形資産の所有者となる場合があります。この場合の前提には、委託者が必要な技術の開発を依頼するため、研究開発に係る予算や開発テーマを決め、委託した開発テーマの進捗状況を管理し、開発された内容について依頼内容と異なっていれば修正を求めるなどの対応を行い、開発された技術の権利保護等を行うものと考えられます。

このように、委託開発の依頼者が実質的に意思決定を行うことで研究開発活動を主導しており、すなわち当該開発に係るリスクを負担する能力があり、かつその開発に係る費用を負担しているような場合には、当該委託者が無形資産の所有者として認められるものと考えられます。

過去の裁判で、子会社が親会社に対して委託開発を行い、当該開発の成果である無形資産及びそれに帰属する超過利益がどちらに帰属するかが争われました。その事案では、最終的に子会社側が研究開発活動に係るテーマ決め、進捗管理等を行い、研究開発活動を主導していることが認められ、子会社の親会社に対する委託開発の結果、子会社が無形資産の所有者であることが認められました(課税の帰着としては事業年度によって納税者一部勝訴あるいは全部勝訴)。

このように、委託開発に係る無形資産の所有者は、単純に委託者・費用の負担者かどうかで判断するのではなく、実態として当該開発活動を統括する者が誰かを判断することが重要となります。

通常、独立企業間において委託開発を行なう者であれば、以下のような機能を有していると考えられますので、具体的な実態判断基準として参考になれば幸いです。

◆研究・マーケティングプログラムのデザイン及びコントロール
◆予算の管理及びコントロール
◆無形資産の開発プログラムに係る戦略的な決定へのコントロール
◆無形資産の防御・保護に係る重要な決定
◆無形資産の価値に重要な影響があると考えられる機能に係る品質管理へのコントロール

また、移転価格参考事例集の事例14の解説では、無形資産の委託開発を行なう者が有する「意思決定」及び「リスク管理」について、以下のように解説されています。このような当局の通達等も参考にしながら、グループとして

「意思決定」とは、具体的開発方針の策定・指示、意思決定のための情報収集等の準備業 務などを含む判断の要素であり、「リスク管理」とは、例えば、無形資産の形成等の活動に内在 するリスクを網羅的に把握し、継続的な進捗管理等の管理業務全般を行うことによってこれらの リスクを一元的に管理する業務等である。