移転価格解説

移転価格課税と国内救済措置(不服申し立てと税務訴訟)

 税務当局による課税に対して不服があり、かつ相互協議の申立てができない又は相互協議に決裂した場合には、課税の取り消しを求めて不服申し立て又は税務訴訟を行うこととなります。まずは裁判の前に不服申し立てとして、異議申立て又は審査請求をすることとなります。

 異議申立てとは、課税庁に対して課税内容が事実誤認に基づく又は違法な課税であるとして取り消しを求めるものです。従って、課税を行った者に対して異議を申し立てるものですが、既に調査の中で調査官とは議論が尽くされており、特に移転価格課税の場合には国税庁による一元管理の元、当局内でのコンセンサスをとったうえで課税に至っていることから、異議申立てにより課税判断が覆る可能性は低いと言われています。

 異議申立てが認められなかった場合には、課税庁では無く独立の審査機関である国税不服審判所に対して審査請求を行うこともできます。なお、審査請求は異議申立てを経なくても行うことができます。審査請求により、課税の内容や調査の手続きに違法性が無いか、法令解釈に間違いが無いかを審査し、課税の取り消しを求めます。

 国税不服審判所の裁決の結果、課税の取り消しがなされない場合には、裁判所に訴訟を提起することができます。国税不服審判所は独立機関とはいえ国税組織の一部でもありますが、税務訴訟では、より独立性の高い判断がなされる可能性はあります。税務訴訟の場合は、地方裁判所での裁判から始まり、控訴がなされれば高等裁判所、場合によっては最高裁判所で争われる可能性もあります。移転価格課税に対する裁判の件数は多くても年に数件程度ですが、納税者が勝訴するケースもあります。

 こうした不服申し立て、税務訴訟の結果、課税が全部取り消しされる場合もあれば、課税に係る計算方法の一部誤りや、再計算の結果、一部の課税額を取り消す場合などもあります。

 税務当局としては、不服申立てや税務訴訟で敗訴した場合、その後の類似の事案についての税務執行にも関わることから、地方裁判所の段階では控訴する可能性が高いと考えられます。最高裁まで進む場合、そこで出た結論の影響力は非常に大きいことから、高裁で終わる事案も多いように思われますが、いずれにしても課税の取り消しには高裁までは戦う覚悟で臨む必要があります。

 このように不服申立てから裁判まで行うのには、相互協議以上の労力と費用がかかるものと考えられ、期間としても5年程度は想定しておいた方が良いかと思われます。そのため、数千万円程度の追徴税額ではコストの方が大きくなってしまうため、数十億円以上の追徴税額事案でなければ、国内救済措置に進むメリットは低いものと考えられます。