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インドネシアの移転価格税制

近年の動向

インドネシア

(2022年11月29日更新)

インドネシアではBEPS行動13について新たな規定(PMK-213)が発令された。PMK-213 では、国外関連車間取引に係るマスターファイル、ローカルファイル、国別報告書(CbCレポート)に関して定められている。 また、PER-29ではCbCレポートの詳細について定められている。

 

基本情報

①税務当局

Directorate General of Taxation (DGT)

②移転価格税制の課税対象

特殊な関係がある国外関連企業との取引。

なお、特殊な関係としては以下の関係が挙げられている。

◆25%以上の資本関係(直接、間接、(被)共有の関係)

◆直接・間接の支配関係(共通の者に直接・間接に支配を受ける関係を含む)

◆血縁・婚姻により一親等以内の近親者とみなされるもの

①OECDガイドラインとの整合性

インドネシアの移転価格税制は、概ねOECDガイドラインに準拠しているが、税務調査においては異なる取り扱いがなされることもある。

③移転価格文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

I.国別報告書

  • 対象初年度:2016年
  • 企業グループの連結総収入金額が11兆IDRを超えている場合は、国別報告書を作成する義務がある。
  • 使用言語:インドネシア語
  • 期限:会計年度終了から12か月内に準備、申告書の別紙として提出。
  • 罰則:100万IDRおよび追徴税200%以下のペナルティー。犯罪に該当する場合には12か月以下の懲役。

 

II.マスターファイル

  • 対象初年度:2016年
  • 使用言語:インドネシア語。
  • 年度に関連者間取引を行った上で、下記のいずれかの条件に合致する企業はマスターファイルを作成する義務がある。

    ①関連者が当該企業より低い税率の税務管轄に所在する場合

    ②前年度の収入金額が500億IDRを超えている場合

    ③前年度の関連者間有形資産売買取引額が200億IDRを超えている場合

    ④前年度の関連者間無形資産取引金額が50億IDRを超えている場合。

  • 期限:会計年度終了から4か月以内に準備。提出依頼から7日以内に提出。あるいは調査プロセスにある場合は30日以内に提出。
  • 罰則:文書化の不備等により課税所得に誤りが生じた場合、利子率にその20%加算した料率により附帯税が課される。

 

III.ローカルファイル

  • 対象初年度、使用言語、条件、期限、罰則はMFと同じ。尚、遅れて提出された場合は認められない可能性がある。

④移転価格に関する税務当局への開示

法人税の申告に係る事項として、国外関連取引の詳細及び移転価格文書に関する備考を求める2つの別表の提出が求められる。開示がなされない場合、税務当局から注目を受ける可能性が高くなる。/span>

⑤移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、取引単位営業利益法(TNMM)及び利益分割法。

2011年11月以降、ベストメソッドルールが導入されている。

⑥移転価格課税の時効

5年

⑦罰則等

税務調査を有利に進めるには文書化しておくことが有効。

移転価格課税を受けた場合: 遅延利息

⑧相互協議・事前確認申請(APA)

相互協議:課税を受けた場合、納税前に相互協議を申し立てることが可能。

APA:ユニラテラルAPA、二国間APAを想定。

タイの移転価格税制

近年の動向

インドネシア

(2022年11月29日更新)

2018年11月21日にThailand’s Transfer Pricing Act (TP Act)が公表された。TP Act では国外関連取引について3つの新しい規定(section 35 ter, 71 bis and 71 ter)が追加された。 この新たな移転価格に関する規定は、2019年1月1日以降に有効となる。また、タイの移転価格ガイドラインの中のDI 113において、移転価格文書化規定が設けられることとなった。

基本情報

①税務当局

Thai Revenue Department (TRD)

②OECDガイドラインとの整合性

タイはOECD加盟国ではないが、タイの移転価格税制は基本的にOECDガイドラインに準拠している。

③移転価格税制の適用対象

以下のような関係がある当事者間の取引に移転価格税制を適用することとしている。

・一方の法人が他方の法人の資本の 50%以上の株式を直接または間接に保有している場合

・二つの法人が同一の者によってそれぞれの法人の資本の50%以上の株式を直接または間接に保有される場合の当該二つの法人

・実質支配基準に該当する場合(一方の法人が他の法人と資本、経営の関係を有する場合、または支配している場合、他方の法人から独立して事業活動を行うことができない場合、同一の複数株主に保有されている法人で、当該複数株主の保有割合の合計が50%以上となる場合など)

④移転価格文書化義務

I. ローカルファイル

タイの税務調査では、移転価格文書を要求された日から60日以内に提出をしなければならない。 ただし、売上高がTHB200 million (US$6 million)を超えない場合には移転価格文書化資料の提出義務が免除される。

II. CbCR

連結総収入が280億THB超の法人 なお、マスターファイルに関する規定はない。

⑤税務当局への毎年の移転価格の開示

関連者取引がある納税者は、移転価格に関する指定のFormを会計期間終了後、150日以内に提出しなければならない。

⑥移転価格算定方法

OECDと同様(CUP法、再販売価格基準法、原価基準法、取引単位営業利益率法(TNMM)、利益分割法及びその他の方法)

⑧移転価格課税の時効

移転価格課税の更正期限に関しては原則として申告日から5年間

⑨罰則等

移転価格に関する開示フォームおよびローカルファイルに関するコンプライアンス違反あるいは申告情報の誤りについて200,00THBを上限とする罰金が課される。その他申告漏れとなった税額に対する利息が課される。

⑩相互協議・事前確認申請(APA)

相互協議:可能

APA:二国間APAが可能

⑪使用言語

2021年1月以降開始事業年度についてはローカルファイルはタイ語での提出が求められることとなった

ポーランドの移転価格税制

ポーランドの移転価格税制

【近年の動向】 (2012年5月現在)

ポーランドにおいては、移転価格課税を重点項目の一つとして考えている。近年では、2006年のAPA制度導入以降、申請件数が増えていないこともあり、納税者に対してAPAの取得を推奨している。

【基本情報】

①税務当局

Ministerstwo Finansów

②移転価格税制の課税対象

5%以上の株式の保有関係にある国外関連者との取引。

③移転価格課税の時効

6年間

④文書化の義務

国外関連者間取引がEUR30,000を超える場合、文書化資料を準備しなければならない。

但し、持分割合が20%未満である場合には、取引金額がEUR50,000又はEUR100,000を超える場合に文書化の義務が発生する。

またタックスヘイブン対象国との取引がEUR20,000を超える場合にも文書化義務が課される。

文書化を行わずに課税された場合、50%の税率(通常の場合19%)が課される可能性がある。

なお、ポーランドの文書化規定では、必ずしもベンチマークスタディは求められていない点も特徴的である。

⑤比較対象会社の選定

ポーランド税務当局は、データベースとしてAmadeus又はローカルデータベースであるTegielを使用している。

⑥移転価格算定方法

伝統的な取引基準法(独立価格比準法、原価基準法、再販売価格基準法)が優先されており、利益ベースの算定方法(取引単位営業利益率法、残余利益分割法等)は劣後する。

⑦移転価格課税が行われた場合のペナルティー

通常の税率は19%であるが、課税にあたっては50%の税率が課されることとなる。

但し、文書化資料の準備により、通常の19%の税率に減額できる可能性がある。

⑧近年の傾向

過去に比較して、無形資産取引等の複雑な事案に対して調査が行われるようになってきている。

⑨比較対象会社の選定

原則としてポーランドの企業を選定することが求められるが、ポーランドと同様の経済状況にある国の企業であれば認められる可能性がある。

⑩関税当局と税務当局との連携

関税当局と税務当局との連携のレベルは比較的高い。

⑪相互協議及びAPA

ポーランド当局は相互協議の経験が少なく、二重課税の解消及び二国間APAの合意には困難が予想される。

⑫使用言語

ポーランド語のみ

ベトナムの移転価格税制

ベトナムの移転価格

【近年の動向】 (2019年5月26日更新)

Article 37において、独立企業原則について定められており、税務当局は取引価格を独立企業間価格(=市場価格)に引きなおして課税を行うことができるとされている。

詳細な移転価格税制はDecree 20/2017/ND-CP (Decree 20) 及びCircular 41/2017/TT-BTC (Circular 41)で定められている。 Decree 20 及びCircular 41は 2017年5月1日より有効となっている。

【基本情報】

①税務当局

Ministry of Finance, General Department of Taxation (GDT)

②移転価格税制の課税対象

一定の形式基準及び実質基準を満たす国内外の関連者間取引

関連者の定義は多岐に渡り、例えば以下の関係がある企業は関連者とみなされる。

◆一方の当事者が他方の当事者の 25%以上の持分を直接又は間接に保有する関係

◆双方が、第三者の持分の 25%以上を直接又は間接に保有する関係

◆資本の 25%以上、または中長期債務の 50%以上を貸付または債務保証している関係

◆重要な人的関係、取引関係、実質的な支配関係がある関係 等

③OECDガイドラインとの整合性

公式には定められていないが、OECDガイドラインを参照することは可能であり、Decree 20 及びCircular 41はBEPSプロジェクトのコンセプトを採用している。

④文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

I.マスターファイル

  • 免除条件:①売上高500億ドン未満(約2.4億円)かつ関連者間取引総額が300億ドン未満(1.4億円)②APA締結済み、③売上高2,000億ドン未満(9.6億円)、かつ限定された機能での事業内容、かつ以下の売上高EBIT比率を満たす場合:販売機能5%以上、製造機能10%以上、加工機能15%
  • 対象初年度:2017年
  • 期限:年度の税務申告期限前に準備、税務機関の要請に応じて提出。
  • 使用言語:ベトナム語。提出フォーマットに関しては、XML Schemaは採用されていない。
  • 罰則:税務行政法に従いペナルティーが算定される。罰金は追徴課税額の10%又は20%、2016年7月1日以降の遅延利息は0.03%/日(課税年度の法令に従い決定)で算定。指摘事項の背景、状況によっては、悪質な罰金として追徴課税額の100%から300%が課される可能性がある。

II.ローカルファイル

  • 対象初年度、期限、使用言語、罰則はMFと同じ。
  • 免除:下記のいずれかの条件に合致する企業はローカルファイルの作成が免除される。 
  • ①年度の売上高が50 billion VND以下であり且つ、関連者間取引額が30 billion VND以下である場合
  • ②納税者の事業活動が単純又は利益の源泉となる無形資産を所有していない且つ、年度の売上高が200 billion VND以下で且つ、卸売業の場合には営業利益率が5%以上、製造業の場合には10%以上、加工業の場合には15%以上である場合、
  • ③APAを締結しており、年次報告書を提出している場合。

III.国別報告書

  • 条件:年度の連結総収入金額が18,000 billion VNDを超えている多国籍企業。当該条件は外国親会社の在ベトナム子会社にも適用される。
  • 対象初年度、期限、使用言語、罰則はMFと同じ。
  • コピーの提出:海外の最終的親会社の国別報告書の提出状況に拘らず、在ベトナム子会社は国別報告書のコピーを提出する義務がある。
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出は認められていない。

④移転価格に関する開示義務

毎年の法人税申告において、Form1という別表で関連者間取引の内容や取引金額等の開示が求められる。開示を怠った場合、税務調査に発展する可能性がある。

Form2はローカルファイルに関するチェックリスト

Form3はマスターファイルに関するチェックリスト

Form4はCbCRに関するチェックリスト(ベトナムに所在する最終親会社で連結総収入が18,000 billion VNDを超える場合)

開示義務が満たされていない場合、700,000VND~5millionVNDの罰金が課される可能性がある。

⑤移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、利益比準法及び利益分割法。算定方法について法的な優先順位は無いが、一般的に伝統的な取引基準法(CUP法、再販売価格基準法、原価基準法)が適用できる場合には、それらが最も直接的で信頼性の高い算定方法であると考えられる。

また、納税者は証拠文書をもって、最良の方法(いわゆるベスト・メソッド)を適用している旨を明らかにすることとされている。

⑥移転価格課税の時効

一般的なルール(違反が発見された日から10年間)が適用される。

⑦罰則等

企業が誤った申告をした場合には、延滞利息(1日あたり0.03%)に加え、過少申告税額の20%を上限とする罰金が課される。不正又は脱税とみなされた場合には罰金は100%~300%となる(例えば、申告が90日以上遅れた場合は脱税と見なされるほか、関連者間取引に係る別表による申告をしなかった場合や移転価格文書の準備をしなかった場合にも100%~300%の罰金の対象になる可能性がある)。

⑧相互協議・事前確認申請(APA)

相互協議:租税条約のネットワークはあっても、相互協議の経験はほとんど無く、二重課税の解消は困難である。

APA :ユニラテラルAPA、二国間APA多国間APA可能。最大5年間分+最大5年間の延長が認められる。

但し、経験がつみあがるまで合意に至るには時間がかかることが予想される。

⑨使用言語

移転価格文書はベトナム語(他の言語で作成された文書はベトナム語に翻訳しなければならない)。

イギリスの移転価格税制

イギリス(英国)の移転価格税制

近年の傾向】

イギリスにおいて、移転価格の問題は政治的にも市民社会においても重要な位置を占めている。OECD/G20におけるBEPSの関する勧告の適用においても、このような観点から対応が進められている。例えば、2015年4月1日からは英国から利益を迂回させている場合に課されることとなる”Diverted Profits Tax(迂回利益税)”の導入も予定されているほか、BEPS行動計画を受けて国内税法やOECD移転価格ガイドラインの改定があった場合に備え、APAや過小資本課税に係る事前合意に税務当局が合意を終了させることができる旨の条項が盛り込まれるようにもなっている。なお、調査の重点項目としては関連者間の調達取引などが挙げられている。

【基本情報】

①税務当局
Her Majesty’s Revenue and Customs (HMRC)

②移転価格税制の課税の対象
直接・間接に経営、支配、資本等について関係がある国外関連者との取引。なお、一般的には51%の支配基準が設けられているが、ジョイントベンチャーの場合はその閾値が40%以上となる。

③移転価格課税の時効
原則として会計年度終了時点より4年。(例外規定あり)

④移転価格に関する開示義務、文書化しなかった場合のペナルティー
無し

⑤移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、
利益分割法(寄与度利益分割法、残余利益分割法)、取引単位営業利益率法、その他の方法(導かれる結果が独立企業間原則に沿ったものとなるもの)

⑥移転価格課税に係るペナルティー
課税時の状況によってペナルティーが異なる。
合理的な対応がされている場合:無し
過失による場合:0〜30%
故意を含む過失による場合:20〜70%
故意・隠ぺいなどによる場合:30〜100%

⑦比較対象会社の選定
イギリスの税務当局は、イギリス企業を比較対象とすることを求める傾向にあるが、イギリス企業のデータが無い場合には外国企業を対象範囲とすることも認められる。

⑧相互協議及びAPA
イギリス税務当局は相互協議の経験も豊富で、多くの事案について合意に至っている。
また、APAについてはバイラテラル(二国間)APA、マルチラテラル(多国間)APA、ユニラテラルAPAが可能。対象期間は将来の3年〜5年間程度となることが一般的。

⑨使用言語
英語

2016年度改正】

2016年2月26日、国別報告書(CbCR)の提出の義務化に係る規則を議会に提出した。この規則は2016年3月18日より施行される。

新規則では、直前会計期間の連結グループ総収入金額が750百万ユーロ以上のUKに本拠を持つ多国籍企業の究極の親事業体は、年次国別報告書の提出が求められる。なお、場合により、UKに本拠を持たない多国籍企業も提出を求められる。本規則は、2016年1月1日以後に開始する課税年度からの適用となる。報告書は、会計年度終了から12か月以内に提出が求められる。

シンガポールの移転価格税制

シンガポール

【近年の傾向】(2019年5月26日更新)

シンガポール当局は、2018年2月22日に “Income Tax (Transfer Pricing Documentation) Rules 2018” (TPD Rules) を公表している。TPD Rulesは2018年2月23日 から発効となり、2019年以降について適用となっている。.

また、シンガポール当局は2018年2月23日に移転価格ガイドライン15版を公表した。変更点としては、TPD Rulesを反映させたこと事例を追加したことである。

所得税法Section 34Dにより、シンガポール当局は納税者の移転価格が独立企業間価格に反する場合に更正を行うことができるものとされている。

また、所得税法Section 34Eでは、移転価格課税に対して5%の課徴金を課すことを認めている。さらに、Section 34Fでは同時文書化について定めており、文書化規定を遵守していない場合にはペナルティを課すこととしている。

【基本情報】

①OECDガイドラインとの整合性

シンガポールはOECD加盟国では無いが、BEPSプロジェクトへの参加国であり、シンガポールの移転価格ガイドラインはOECDガイドラインに準拠している。

②移転価格税制の課税対象

関連者間(直接・間接な支配関係のある者又は直接・間接に共通の者に支配されている者の間)で行われる取引。なお、関連者にはPEなども含まれることとなる。

③移転価格文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

2018年の移転価格ガイドラインにおいて、毎年の移転価格文書化が求められている。しかし、納税者のコンプライアンス義務を軽減するため、取引内容等について大きな変更が無ければ、納税者が過去に作成した文書化資料を基本資料とすることを認めている。ただし、3年に1度は全体的に移転価格文書化資料をアップデートすることを求めている。

原則としては、対象年度における総収入が10百万シンガポールドル(1シンガポールドル=80円として8億円)を超える場合には、毎年移転価格文書化資料の準備を行うことが求められるが、以下の場合には、毎年の作成は免除される。(ただし3年に1度程度のアップデートを行って税務調査で説明可能な状態にしておくことは求められる)

 ●関連者間取引がシンガポール国内のみであること

 ●限定列挙されているルーティーンサービスについて費用+5%のマークアップを付している場合

 ●事前確認(APA)を取得し、年次報告書を提出している

 ●国外関連者間取引が以下の基準金額を下回っている

 -棚卸資産取引が15百万シンガポールドル(1シンガポールドル=80円として12億円)

 -国外関連者への貸付又は借入金額が15百万シンガポールドル(約12億円)

 -その他の取引(サービス、ロイヤルティ、賃貸、保証料等)が百万シガポールドル(約8千万円)

I.マスターファイルとローカルファイル

シンガポール当局は、BEPSプロジェクトで示されたようにマスターファイルとローカルファイルとを別個の資料として採用していない。シンガポール当局が求める情報は、概ねOECDガイドラインで求められているものと同様である。2018年の移転価格ガイドラインでは、グループレベルの情報と法人レベルの情報の2層アプローチによる文書化資料が求められている。

II.国別報告書

  • シンガポールに本社を置き、且つ当該企業グループの連結総収入金額が1,125 million SGDを超えており、2社以上の国外関連者を有する場合は国別報告書を作成する義務がある。
  • 対象初年度:2017年
  • 期限:会計年度終了から12か月内に提出。
  • 使用言語:英語。OECD指定のXML Schemaを導入予定。
  • 代理提出:外国企業グループの代理提出は受け付けていない。
  • 罰則:国別報告書を期限内に提出しなかった場合、IRASはつぎの措置をとる。
  • ①1,000 SGD以下の罰金、②当該罰金を納めなかった場合、6か月以下の懲役、③有罪確定日から日50SGDの追加罰金。国別報告書に虚偽または誤解を招くような情報があると判断された場合、①10,000 SGD以下の罰金、②2年以下の懲役、③又はその両方。

④移転価格に関するその他開示義務

無し

⑤移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、原価基準法(CP法)、再販売価格基準法(RP法)、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法。適用の優先順位は特に無く、最適な方法を選択するいわゆるベストメソッドルール。

ただし、金利取引についてはCUP法が優先適用される。

⑥移転価格課税の時効

2008年以降の更正期限については4年。ただし、租税回避の場合は無制限。

文書化資料は取引を行った年度から5年間保存しておかなければならない。

⑦相互協議及びAPA

相互協議・APAについては相当の経験を有しており、二重課税の解消も可能である。

特に過去の傾向からすると、日本との相互協議については合意できる割合が高くなっている。

⑧使用言語

英語

スイスの移転価格税制

スイスの移転価格税制

【近年の傾向】 (2012年5月現在)

スイスの移転価格税制は、グローバルスタンダードであるOECDガイドラインに完全に準拠した内容となっている。

スイス当局は、近年移転価格の問題について重要視し始めている。

【基本情報】

①税務当局

Eidgenössische Steuerverwaltung
(ESTV) [Federal Tax Administration]

②移転価格課税の時効

10年。

③移転価格に関する開示義務

なし

⑤移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)

利益法(取引単位営業利益率法(TNMM)、比較利益分割法)

*比較的、基本三法が好まれる傾向がある。

⑥移転価格課税に係るペナルティー

通常の法人課税に係るペナルティーが適用される。

⑦使用言語

原則ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語のいずれかだが、文書化は英語でも認められる。

マレーシアの移転価格税制

マレーシア

【近年の動向】(2019年5月26日更新)

2003年にOECDの考え方に沿った移転価格に関するガイドラインが導入されているが、2012年には当該ガイドラインがアップデートされるなど、時流に合わせて移転価格税制を改正・整備してきている。また、2014年以降は申告時に移転価格文書を準備しているか否かを申告させる規定が導入されるなど、移転価格税制は強化傾向にあると言える。

なお、2011年6月以降はForm MNE [1/2012]を導入し、特定の企業から国外関連者間取引に関する詳細情報を集めている。そして2017年6月に移転価格ガイドラインがアップデートされている。

継続的に赤字を計上している会社、利益率の低い会社、利益率の変動の激しい会社、国外関連者間取引金額の大きい会社は調査の対象となりやすい。また、グループ内役務提供取引については、特に注視される傾向にある。

【基本情報】

①税務当局

Lembaga Hasil Dalam Negeri / Malaysian Inland Revenue Board(MIRB)

②移転価格税制の課税対象

以下の関係がある者の間で行われる取引。

◆支配関係(例:50%以上の株式(被)保有関係、実質支配関係、共通の者に支配される関係)

◆親戚関係

③文書化義務

I.国別報告書

  • 条件:年度の連結総収入金額が3 billion RMを超えている多国籍企業。当該条件は外国親会社を持つ在マレーシア子会社にも適用する。
  • 対象初年度:2017年1月1日以降に開始する会計年度。
  • 期限:会計年度終了から12か月以内に提出。
  • 使用言語:英語、マレー語。提出フォーマットは、OECD指定のXML Schema。
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を承認。
  • 通知:会計年度終了までに税務機関に通知。
  • 罰則:20,000~100,000 RM以下のペナルティー、6か月以下の懲役。

II.マスターファイル

  • BEPS Action 13のマスターファイルについてのガイダンスは、現時点では法令に組み込まれていないが、将来的に導入する予定。
  • 対象初年度:2017年1月1日以降に開始する会計年度。
  • 期限:税務機関の要請から30日以内に提出。
  • 使用言語:現行文書化と同様に言語は英語又はマレー語だと想定される。

III.ローカルファイル

  • 総収入金額が25百万MYR以上、又は国外関連者間取引が15百万MYR以上又は金融取引が50百万MYR以上である場合には、ローカルファイルの作成及び保存が求められる。
  • 英語又はマレー語で作成。
  • 税務当局からの要求があった場合、30日以内に提出しなければならない。
  • ④移転価格に関する開示義務

    関連者との取引に係る情報(粗利、税引前利益等)を申告書上で開示することが求められる。

    ⑤移転価格算定方法

    独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、取引単位営業利益法(TNMM)及び利益分割法。

    ただし、TNMM又は利益分割法は、伝統的な取引基準法が適用できない時に限り適用されるべきであると考えられている。

    ⑥移転価格課税の時効

    7年間(ただし、不正等があるときは無期限)

    ⑦罰則等

    MIRBから同時文書の要求があった場合:要求から30日以内に文書を提出できないときは、(申告期限と)同時に作成されていないものと見なされ、ペナルティーが課される可能性がある。

    移転価格課税が行われた場合:追徴税額の25%又は35%がペナルティーとして課される。ただし、移転価格調査を妨害したり、過去の調査でも独立企業間原則に従っていなかった場合などにおいては、前回の料率+20%(100%を上限とする)が課される。

    なお、法令に則った充実した同時文書の準備により、ペナルティーについては最大全額免除を受けられる可能性がある。

    ⑧相互協議・事前確認申請(APA)

    相互協議:マレーシア当局は相互協議の経験が多くなく、二重課税が排除できるかは疑問が残る。

    APA:ユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAが可。ただし、合意に至るには困難が予想される。

    ⑨使用言語

    移転価格文書はマレーシア語又は英語

ベルギーの移転価格税制

ベルギー

【基本情報】 (2012年5月現在)

①税務当局

Federale Overheidsdienst Financiën

Service Public Fédéral Finances

②移転価格税制の課税対象

明確な規定は無いが、支配関係にあるか否かで判断されることとなる。

③移転価格課税に係る更正期限

原則3年であるが、悪質な租税回避とみなされた場合7年となる。

④移転価格に関する開示義務

原則として無いが、特定のグループ間役務提供取引について開示を求められることがある。

⑤文書化資料を準備しない場合のペナルティー

無し。

⑥移転価格算定方法

OECDガイドラインに準拠しており、TNMMの適用も認められる。

⑦移転価格課税に係るペナルティー

規定上、追徴税額の10%~200%を加算税として課すことができるが、適用されることはそれほど多くない。

⑧比較対象会社の選定

汎ヨーロッパを対象として選定することが認められる。

⑨相互協議及びAPA

ベルギー当局は相互協議に関してもある程度経験があり、二重課税は解消できる可能性がある。

また、APAの制度については整備が進んでおり、APAの取得は比較的スムーズに進むものと考えられる。

⑩使用言語

地域によってドイツ語かフランス語が使用されるが、英語での文書化資料の準備も認められる。

フィリピンの移転価格税制

フィリピン

【基本情報】 (2012年5月現在)

①税務当局

Bureau of Internal Revenue (BIR)

②移転価格税制の課税対象

直接又は間接的な支配関係又は所有関係のある企業

③移転価格課税の時効

現状、フィリピンには明文化された移転価格ガイドラインは無いため、一般的な法人税の時効である3年が適用されると考えられる。但し、悪質な租税回避行為とみなされた場合、10年間の時効が適用される可能性がある。

④移転価格に関する開示義務

無し。但し、税務申告の際、関連者間取引の情報を含めた監査済みの決算報告書の提出が求められる。

⑤移転価格算定方法

現在、移転価格ガイドラインの作成中であるが、概ねOECDガイドラインに準拠した内容となっている。

⑥移転価格課税に係るペナルティー

作成中の移転価格ガイドラインによると、25%~50%の加算税と年率20%の延滞税が課される可能性がある。

⑦比較対象会社の選定

現状不明であるが、OECDガイドラインに準拠するものと思われる。

⑧相互協議及びAPA

租税条約のネットワークが希薄であり、相互協議の経験も少ない。

APAについては、移転価格ガイドラインのドラフトでは導入予定であるが現状は規定が無く適用はできない。

⑨使用言語

英語