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原価基準法の適用にあたっての留意点

原価基準法とは

 原価基準法は、第三者から仕入れた原料や製品を製造・加工し、国外関連者に販売するような場合、当該製造原価に適正な売上総利益を加算して、国外関連者への適正な販売価格(移転価格)を算定する方法です。「適正な売上総利益」の算定にあたっては、比較対象会社を選定し、当該比較対象会社の売上原価総利益率の平均値等を基準として算定を行うこととなります。

【原価基準法の適用にあたっての留意点】

 再販売価格基準法の方法での説明と同様に、売上総利益は比較分に析あたっては機能・リスクの差異の影響を大きく受けるため、比較対象の選定に際し、高い比較可能性が求められます。例えば、使用する製造設備や製造工程、在庫リスクの負担等によって粗利率は大きく影響を受けるものと考えられます。

【課税リスクのポイント】

 原価基準法の適用にあたっては、粗利率をベースとした検証方法であるため、再販売価格基準法と同様に、比較対象には高い類似性が求められ、比較可能性が十分でないと税務当局から一部の比較対象会社を否認される、又は、算定方法自体について否認されるケースもありますので注意が必要です。

再販売価格基準法を採用していた場合の課税事例

 自動車部品を販売するY社は、日本で研究開発及び製造を行い、製造した部品を米国およびインドネシアの販売子会社を介して北米およびアジア市場での販売を行っていました。

海外子会社との取引価格の設定は、世界統一で、売価から25%のマージンを引いた価格で設定を行っていました。このマージン25%の設定は、アメリカの第三者商社のマージンが25%であったため、これを採用していました。

 その後、税務調査が入り、インドネシア子会社との取引が調査対象となり、上記の価格設定を説明しましたが、米国の第三者商社とインドネシア販売子会社とでは経済状況が大きくことなるため比較可能性は認められず、税務当局は自らインドネシアの独立のディーラーを選定し、当該インドネシアディーラーの粗利が20%であったため、インドネシア子会社の売上高×(25%-20%)×5年分を海外への所得移転として課税を行いました。

コメント:特に日本の税務当局は、比較対象について、検証対象と同じ国に所在することを重要視する傾向にあります。グローバルで統一的な価格設定方針を立てることは実務上やりやすいですが、国によって経済状況は異なるため、各国の事情を考慮して価格設定を考えていくことが重要です。

再販売価格基準法の適用にあたっての留意点

再販売価格基準法とは

 再販売価格比準法は、例えば、国外関連者から製品を輸入し、それを第三者に販売する場合に、当該第三者への販売価格から、適正な売上祖利益を控除して、適正な輸入価格(移転価格)を算定する方法です。

再販売価格基準法の適用にあたっての留意点

 独立価格比準法以外の方法は、国外関連者との取引価格を直接検証するのではなく、国外関連者との取引を通じた利益が適正な水準であるかどうかを検証することで、間接的に、その取引価格(移転価格)が適正であるかどうかを検証する方法です。再販売価格基準法の方法の場合、再販売を行う比較対象会社の売上総利益率を基準とする訳ですが、売上総利益率は、その事業者の果たす機能とリスクの違いによって大きく影響を受けます。例えば、アフターサービスを行うか否かや、在庫リスクを負うかどうか、輸入に係る取引条件等により、売上総利益率は影響を受けるものと考えられます。従って、比較対象取引の選定にあたっては、比較的厳格な比較可能性が求められるため、外部情報から比較対象取引を選定しても、そのような非常に類似した取引情報を入手できないケースが多いのが実情です。会社と第三者との間で国外関連者間取引と類似の機能を果たす取引があれば、比較可能性が高い場合もあるため、適用可能性はあると思います。まずは、そのような取引が無いか、確認をする必要があります。

【課税リスクのポイント①】

 本算定方法にあたっては、独立価格比準法と比較して製品の類似性に対する要件は低いものの、機能・リスクについて高い比較可能性が求められるため、納税者が選定した比較対象会社について、比較可能性が十分でないとして税務当局から否認を受けるリスクはあります。また、選定した比較対象取引が、全て比較可能性が低いと判断された場合、本算定方法の適用は不能と判断されるケースもあります。他の算定方法と同様、比較対象会社が否認されるリスクとその対応策については事前に検討しておくことが必要でしょう。

検証対象会社の決定

 再販売価格基準法及び、後述する原価基準法、取引単位営業利益率法は、国外関連者のどちらか一方を検証する方法であり、どちらを検証の対象とするか決定することとなります。また、これらの算定方法は、比較対象取引(比較対象会社)を選定する必要がありますが、比較対象の選定にあたっては、利益率に影響を与える様々な要素について類似している必要があります。ここで、活動内容の複雑な者を検証対象としてしまうと、それら数多くの要素について類似した比較対象を選定しなければならなくなります。例えば、研究開発、製造、ブランディングを行う本社の比較対象を選定しようとすると、それらの要素について活動レベルも同様の会社を選定する必要がありますが、公開情報の数にも限界もあるため、これは非常に困難又は不可能なケースもあります。そのため、より活動内容が単純な者を検証対象とすることとされています。通常の場合、機能の複雑な本社を検証対象とする場合に比べ、例えば単純な卸売業務のみを行う海外子会社を検証対象とした方が、より比較対象を選定できる可能性が高くなります。

 また、活動内容が単純で、引き受けるリスクが少ない者の方が、手数料的に一定の利益を計上する傾向にあり、利益率のブレが少ないことも重要な点です。研究開発やブランディングに多額の投資を行っている会社は、その成否によって利益率が大きく異なるため、活動内容の類似する独立企業があったとしても、その利益率がベンチマークとして利用可能かどうか、より一段の検討が必要となるからです。

【課税リスクのポイント②】

 一般的には、海外子会社の利益率が比較対象とそん色ない水準に保たれていれば問題は生じにくいですが、例えば原料や部品を日本本社が輸出して海外子会社が製造・加工して販売するようなケースでは、その機能だけ切り出してみると日本本社の方が単純な商社機能とみる見方もあります。従って、この取引で日本本社が赤字になっているような場合には、日本本社を検証対象として比較対象会社を選定され、課税を受けるケースもあるため、注意が必要です。

 移転価格に関してある程度経験のある方ほど、当然のように海外子会社を検証対象として考える傾向がありますが、本社側が検証対象となる可能性があることも常に頭に置きながら移転価格を考えていくことが重要だと思われます。

独立価格基準法を採用していた場合の課税事例

 あるコンピューター機器の製造会社X社が、日本で研究開発及び製造を行い、それを中国の販売子会社に卸売をし、その販売子会社を介して中国市場での販売を行っていました。売上は好調で、毎年数千台のコンピューターAを販売していました。

 その会社は、販売子会社設立前、自社のコンピューター(中国子会社に販売している製品の前のバージョン)を中国の第三者ディーラーに中国市場で販売してもらおうと考えており、試作機として数台のコンピューターBを販売していましたが、最終的に契約に至らず、現地で販売子会社を設立しました。

 X社は、中国子会社へのコンピューターの販売にあたって、過去に取引を行った第三者ディーラーへの販売価格と同額を設定し取引を行っていました。

 その後、税務調査が入り、会社は第三者ディーラーへのコンピューターBの取引価格と同額で子会社とのコンピューターAの取引価格(移転価格)を設定していると調査官に説明しましたが、税務調査官は、コンピューターABでは、販売時期、バージョンの違いによる性能の差、販売数量が大きく異なるため、両者は比較不能とし、ほかに比較対象となる第三者との取引価格情報は見当たらなかったため、取引単位営業利益率法を適用して検証することとしました。結果として、選定された比較対象会社の営業利益率が3%であったのに対し、海外子会社の利益率は15%を計上していたため、差額の12%×売上高が国外への所得移転として過去3年分の取引について追徴課税を行いました。



コメント:独立価格比準法をもとに取引価格を設定していたとしても、営業利益率ベースで利益率に大きな偏りがある場合、移転価格の専門家からすると、価格設定に何らかの問題があるのだろうという見方をします。独立価格比準法は、比較可能性に疑いがあれば否認されるリスクも高いため、否認される可能性を考慮しつつ、価格設定を考えていくことが重要だと思われます。

独立価格基準法の適用にあたっての留意点

 移転価格の算定方法は、法令及び通達において定められたものがあります。原則としては、その中から状況に応じて最も適切な算定方法を選択することとなります。

なお、これまで「基本三法」と呼ばれる以下の独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法の三つの方法を優先適用し、これらの方法が適用できない場合にのみ、利益分割法、取引単位利益法の適用が認められていましたが、平成23年度の税制改正で、この基本三方の優先適用の規定は改正され、全ての方法の中から、事案に合わせて最も適切な方法を選択するよう改正が行われています。

納税者は、国外関連者との取引について、これらの定められた算定方法の中から(場合によってはそれらに準ずる方法により)、対象の取引について「最も適した移転価格算定方法」を採用し、その結果に基づいて国外関連者との取引価格を決定・調整していくこととなります。しかし、この「最も適した」算定方法がどれであるかについても税務当局との見解の相違が生じ得るうえ、採用した算定方法について異論が無い場合でも、その計算過程について見解の相違が生じる場合はあります。各算定方法について、どのような形で課税に至ってしまうのか、以下述べさせて頂きます。

独立価格比準法とは

 独立価格比準法は、類似の有形資産または無形資産の取引価格どうしを直接比較する方法です。例えばAという製品を国外関連者と取引していた場合、同じ製品Aを海外子会社所在国の独立企業に販売していれば、当該独立企業への販売価格を比較対象として、海外子会社との取引価格を検証します。製品Aを同じ国の独立企業に販売している実績がなければ、当該製品Aと同じような機能を持ち、同じような形状、材質、特性を持った製品Bを第三者に販売している場合の取引価格を比較対象とすることもできます。または、第三者である独立企業間での製品A又は製品Aと同種の製品Bが取引されていれば、その第三者間の取引価格を基準として関連者間取引価格を検証することとなります。

コラム:移転価格税制上の「同種」と「類似」

 移転価格税制上、比較可能性の程度を表す表現として、「同種」という単語と「類似」という単語が使用されます。両者の使い分けとしては、「同種」とは非常に酷似したことを意味しており、主に独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法の法令の文言等で使用されます。一方で、「類似」とは、「同種」と比較してもう少し範囲が広く、当該取引の利益率に影響を与えない程度の差異を許容した類似性を指しています。

 平成23年の税制改正以前は、この3つの方法が基本三法として、優先適用すべき旨が定められていましたが、実務上、実際に使用されるケースは必ずしも多くありませんでした。その理由として、これら基本三方は、その比較対象取引について「同種」の類似性を求めており、かなり高いレベルで類似している必要がありました。しかし、そのように類似した第三者間取引にかかる価格情報または損益の情報が入手できない、又は存在しないことが多く、現実的に、適用できないケースが多かったということがあります。

 もちろん、平成23年の税制改正以降でベストメソッドルールが導入された後においても、これら基本三法で求められる類似性のレベルに変更はありません。反対に言うと、基本三法を適用して(例えば類似製品の相場価格を参考に)移転価格を設定していても、当該比較対象とした取引価格との差異を追及され、その類似性を否認される可能性が高い算定方法であるとも言える点に留意が必要です。

【独立価格比準法の特徴】

 この方法は、製品の価格どうしを比較するため、少しでも製品の特徴や材質等が異なると、比較可能とは言えない面もあり、感覚的にもかなり類似した(ほぼ同じ)製品同士でなければ、適用は困難となります。また、取引数量や取引時期、契約条件(引渡条件、決済条件、製品保証、返品条件等)等が異なる場合、取引価格も変わってくるため、そのような場合は調整計算が必要となります。一般的に、国外関連者と取引を行う製品を第三者とも取引しているケースは少なく、本方法が適用できるケースはあまり多くないのが実情です。ただし、もしそのような取引があれば、もっともシンプルで、かつ、信頼できる算定方法となりますので、そのような第三者間取引が無いか否か確認しておくことが必要です。もし、非の打ちどころの無い類似性の高い比較対象取引があれば、独立価格比準法が「最も適した方法」として判断される可能性は高いものと考えられます。


【課税リスクのポイント】

 上記のとおり、製品の特徴や取引条件等のわずかな違いで価格は変わり得るため、少しでも内容の異なる製品価格を比較対象としている場合、税務調査の際にはその違いを指摘され、否認を受ける(比較対象となり得ないと判断される)可能性があります。その場合、本算定方法は不適切として、別の算定方法により移転価格の算定が行われ、その結果所得配分に問題があれば課税を受けることとなります。本算定方法を採用している場合、税務当局から想定される否定的な内容(類似性を否定される理由)を前もって検討しておき、類似であることが十分に説明できるよう準備をしておくことが重要です。また、本算定方法が否認され、他の算定方法が採用された場合にリスクが大きくならないよう、2つの方法により検証を行っておくことも有用であると考えられます。

中国の移転価格税制

近年の動向

中国

2022年11月29日更新

中国においても引き続き移転価格については高い関心を示しており、近年ホットトピックとなっている。 APAの申請件数も引き続き増加傾向にあり、体制の強化を図っているが、関連規定整備後においては新規定に基づく移転価格対応の強化が図られることが見込まれ、納税者に相当の準備が求められることになることが予想されている。                               

 

基本情報

①税務当局

国家税務総局(State Administration of Taxation, SAT)を中心に、各省の税務当局により移転価格税制の執行が行われている。

②移転価格税制の対象取引

25%以上の株式につき直接・間接の保有関係のある関連者との取引。

また、実質的に支配関係にある場合にも課税対象となる可能性がある。

③文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

【Ⅰ.国別報告書】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業は国別報告書を作成する義務がある。

    ①当該企業が企業グループの最終持株会社であり、且つ前年度の連結収入が55億人民元(約880億円)超

    ②企業グループにより報告者として指定された事業体

  • 対象初年度:2016年
  • 期限:対象年度の翌年5月までに提出。
  • 使用言語:中国語、英語
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を認めている。代理提出企業は税務機関に最終持株会社の企業名を翌年5月に提出されるRTP Formにて報告。
  • ペナルティー:提出しなかった場合、提出した情報が著しく不完全・不正確な場合などにあり(~5万人民元)

【II.マスターファイル】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はマスターファイルを作成する義務がある。

    ①国外関連取引を行っており、且つ当該企業が所属する企業グループの最終持株会社がすでにマスターファイルを作成している

    ②年度の関連者間取引総額が10億人民元(約160億円)超 ※国内関連取引のみは免除

  • 対象初年度:2016年
  • 期限:会計年度終了から12か月内に準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • 使用言語:中国語
  • ペナルティー:規定違反などの場合にあり(~5万人民元のペナルティのほか、追徴税額(発生した場合)のプライムレート+5%の利子税相当額のペナルティ)
  • マスターファイルの義務はBEPS Action 13のガイダンスを反映している。追加条件として国別報告書の提出者の企業名、所在地を報告する義務がある。

【III.ローカルファイル】

  • 下記のいずれかの条件に合致する企業はローカルファイルを作成する義務がある。

    ①年度の関連者間有形資産取引額が2億人民元を超えている場合

    ②年度の関連者間金融資産取引額が1億人民元を超えている場合

    ③年度の関連者間無形資産の所有権譲渡金額が1億人民元を超えている場合

    ④その他の関連者間取引額が4,000万人民元を超えている場合

  • 対象初年度、使用言語、ペナルティーは、マスターファイルと同じ。対象年度の翌年6月30日までに準備、税務機関の要請から30日以内に提出。
  • BEPSローカルファイルの項目に加えてバリューチェーン、ロケーションセービングス等の中国独自の分析・記載要請あり。

⑤移転価格算定方法

CUP法、再販売価格基準法、原価基準法、TNMM、利益分割法及びその他の方法が認められている。

⑥比較対象会社の選定

中国の企業が望ましいが、中国限定では選定できない場合、汎アジア地域などに対象を広げることも認められる。

⑦移転価格課税の時効

取引が行われた年度から10年間

⑧罰則等

延滞税として中国人民銀行のRMB貸付基準金利+5%が課される。 但し、移転価格関連情報の開示フォームの提出があり、同期文書の準備がある場合、+5%の延滞税が免除される可能性がある。

⑨相互協議・APA

現在申請件数が増えているものの、処理が追いついていない。 制度的にはユニラテラルAPA、二国間APA、多国間APAともに可能であるが、合意に至るには困難が予想される。

香港の移転価格税制

近年の動向

香港

2022年11月29日更新

香港の租税条約のネットワークは急速に拡大させてきており、日本とは2014年に二国間APAを締結している。 なお、APAについては原則二国間又は多国間のAPAを前提としているが、場合によってはユニラテラルAPAも申請可能である。 また、2014年9月には自動的情報交換の枠組への賛同を表明し、2018年に移転価格税制が改正され、BEPS行動13に基づいて移転価格文書化規定が整備された。法的拘束力のないものの、税務当局の法令解釈や実務について語られているDIPN(The Departmental Interpretation and Practice Notes)も随時公表されている。


基本情報

①税務当局

Inland Revenue Department (IRD)

②移転価格税制の課税の対象

国内外の関連者間取引。関連者の判断に際しては特段の数値基準は無く、持ち分や実質から判断して支配関係にあれば関連者とみなされる。

③移転価格文書化義務

BEPS行動計画13に従った形で、香港のローカル法により移転価格文書の準備義務が定められている。

【ローカルファイル】

適用年度:2018年4月1日以降

作成期限:香港法人の会計年度終了の日から9ヶ月以内

適用対象:小規模事業者、国外関連取引規模が限定的な場合等に関する免除規定あり。

準備が無い場合のペナルティ:50,000HKD又は100,000HKDの罰金

【マスターファイル】

適用年度:2018年4月1日以降

作成期限:香港法人の会計年度終了の日から9ヶ月以内

準備が無い場合のペナルティ:50,000HKD又は100,000HKDの罰金

【CbCレポート】

適用年度:2018年1月1日以降

作成期限:最終親会社の会計年度終了の日から1年以内

準備が無い場合のペナルティ:50,000HKD又は100,000HKDの罰金(場合によりこれらに加えて500HKD/日の罰金)

④移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、原価基準法(CP法)、再販売価格基準法(RP法)、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法及びその他の方法。

⑤移転価格課税の時効

6年間(不正の場合には10年)

⑥罰則等

文書化を行っているか否か努力の程度等により25%~75%の加算税が課される。

⑦相互協議・事前確認申請(APA)

2012年4月より事前確認申請(APA)が導入された。APAは原則としては二国間又は多国間APAを前提としているが、場合によってはユニラテラルAPAも申請可能。 租税条約ネットワークは拡大しており、日本との租税条約も締結・発効していることから、課税後の相互協議・APAとも試み易い環境作りが進められている。

⑧使用言語

移転価格文書は中国語又は英語。

ドイツの移転価格税制

ドイツ

近年の傾向】
ドイツでは、2014年にAuthorized OECD Approach(所謂AOAアプローチ)が国内法に導入されるなど、PEの帰属利益等については2010年に改訂されたOECDの勧告に則った立場を表明している。

【2016年度改正

2016年6月1日連邦財務省は、BEPSを対象とする措置に加え、租税情報の自動的交換を命じるEU指令実施法案を公表した。主な法改正案には、OECDの移転価格文書化に係る国別報告及びマスターファイル/ローカルファイル概念の勧告の採用が含まれている。本法案により、国内法(General Fiscal Code)は、BEPS行動13の報告書の勧告により提供すべき情報の範囲に沿ったものに改訂されよう。

国別報告書

  • 条件:年度の連結総収入金額が7.5億ユーロを超えている多国籍企業。当該条件は在ドイツ子会社にも適用される。
  • 対象初年度:2016年度
  • 期限:会計年度終了から12か月以内に提出。
  • 代理提出:報告書の親会社代理提出を承認。
  • 在ドイツ子会社は、最終的親会社の法人名及び管轄税務機関をドイツ語で報告する義務がある。
  • 罰則:1万ユーロ以下のペナルティー。

マスターファイル

  • 条件:納税者の総収入金額が1億ユーロを超えている場合。
  • 対象初年度:2017年度
  • 期限:税務調査で要請された際に提出。
  • 言語:基本的にはドイツ語。

ローカルファイル

  • 対象初年度、期限、言語等はマスターファイルと同じ。
  • 現行文書化は、BEPS行動13のローカルファイルに係わる勧告を取り入れているが、ローカルファイルは現行文書化に代わるものではない。
  • 関連者間取引額が限定的な場合は、ローカルファイルの要件が簡略化される。

【基本情報】

①税務当局
Federal Ministry of Finance (Bundesministerium der Finanzen – BMF)

②移転価格税制の課税の対象
納税者の株式を直接・間接に25%以上保有している者、納税者との間に直接・間接に支配あるいは被支配関係がある者のほか、所謂兄弟会社や実質的に支配関係がある者などが関連者として定義されており、これらの者との取引が対象となる。

③移転価格課税の時効
原則として4年(租税回避や不正が認められた場合は10年)。

④移転価格に関する開示義務
申告時には特段の開示は求められないものの、国外関連者との取引については独立企業間の価格・契約条件を満たすことについて経済的・法的根拠を具備しておくことが求められている。毎年の文書化を明示的に要請する規定はない(一部例外を除く)ものの、調査官より提出依頼があった場合には60日以内(非経常的取引については30日以内)に提出しなければならない。

⑤移転価格算定方法
CUP法、PR法、CP法、TNMM及び利益分割法を認めているが、基本三法(CUP法、PR法、CP法)の適用が優先される。これらの移転価格算定方法が適用できない場合には、仮想的独立企業間テストと称される検証が行われることがあり、特に無形資産が関係する取引についてはこのような検証が行われる傾向にある。

⑥移転価格課税に係るペナルティー
文書化資料の提出が無い場合又は文書化資料が実質的に利用できないと判断された場合には、5,000ユーロを下限として、更正所得金額の5〜10%のペナルティーが課される。
また、移転価格文書の提出が遅延した場合には、最低1日100ユーロ(上限100万ユーロ)の課徴金が課される可能性がある。

⑦比較対象会社の選定
ドイツ国内で外部比較対象情報を入手することは困難であり、ドイツの税務当局も、汎ヨーロッパの比較対象企業を認める傾向にある。

⑧相互協議及びAPA
ドイツ税務当局は相互協議の経験も豊富で、多くの事案について合意に至っている。
また、APAについては申請に手数料がかかり、対象期間は3年以上5年以下と定められている。

⑨使用言語
原則としてドイツ語(英語で文書化することにつき当局の承認を得ることも可能。実務上、多くの場合においては英語で文書化しておき、調査官の依頼に基づき適宜ドイツ語訳を行うという対応がなされている。)

台湾の移転価格税制

近年の動向

2022年11月29日更新

2004年に移転価格ガイドラインが導入されて以降、2005年から、移転価格の文書化資料が要求されるようになり、独立企業原則に準拠した移転価格の設定が求められている。2015年1月7日に事業再編に関する規定やAPAの申請要件の緩和、事前相談に関する規定を盛り込んだ移転価格ガイドラインの修正案を公表している。2015年3月及び2017年11月、2020年12月にも移転価格ガイドラインのアップデートが行われている。 近年では、税務当局において移転価格専門チームが組織されるなど、移転価格調査は強化される傾向にある。


基本情報

①税務当局

Ministry of Finance(MOF), National Taxation Bureau

②移転価格税制の課税の対象

一定の資本関係又は実質的な支配関係、あるいはジョイントベンチャーの関係にある者の間の取引。

③移転価格文書化義務

【ローカルファイル】

納税者は、原則としてローカルファイルの準備を行わなくてはならない。以下の基準に該当する場合には、準備義務が緩和される。

●収入金額(営業収入及び営業外収入)が300百万TWDを超えない場合

●その他一定の条件を満たす場合

提出期限等:申告期限までに準備(調査通知から1か月以内に提出)

【マスターファイル】

多国籍企業グループに属する納税者は原則としてマスターファイルの提出義務があるが、以下の場合には提出義務が免除される。

●収入金額(営業収入及び営業外収入)が30億TWD以下である場合

●国外関連者間取引の合計金額が15億TWD以下である場合

準備期限等:会計年度終了の日から12ヶ月以内

【国別報告書】

多国籍企業グループに属する納税者は原則として国別報告書の提出義務があるが、以下の場合には提出義務が免除される。

●多国籍企業グループの連結総収入金額が270億TWD以下である場合(profit-seeking enterpriseについて別途規定あり)

提出期限:会計年度終了の日から12ヶ月以内

④移転価格に関する開示義務、

一定の関連者間取引については関連者の情報等ついて、毎年5月31日までに税務申告書上で記載しなければならない。

⑤移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、原価基準法(CP法)、再販売価格基準法(RP法)、利益比準法、利益分割法、その他の方法。 算定方法間での優先順位は無くベストメソッドルールが適用される。

⑥移転価格課税の時効

原則として5年間(期限後申告になった場合などにおいては7年間)。

⑦罰則等

移転価格税制による課税の場合、最大で追徴税額の200%のペナルティーが課される。

⑧相互協議・事前確認申請(APA)相互協議の経験は無く、二重課税を解消することは困難である。

APA:移転価格ガイドラインの基準を満たせば可能

⑨使用言語

移転価格文書及びマスターファイルは原則として中国語により提出する。CbCRは中国語及び英語で提出。

オランダの移転価格税制

オランダの移転価格税制

【近年の傾向】

オランダの移転価格税制は、グローバルスタンダードであるOECDガイドラインに完全に準拠した内容となっている。

オランダは、事前確認申請制度(APA)の利用が盛んであり、相互協議の経験も比較的多い。

また、オランダでは、移転価格、関税、消費税の一体運営を目指して体制を整えている。

2015年度改正】

2015年12月22日、オランダ議会(Senate)で、OECDのBEPSプロジェクト行動13に沿った詳細な移転価格文書化案件を含む新法が可決し、2016年1月1日に発効している。これには、国別報告、マスターファイル、ローカルファイルが含まれる。これら文書は、税務当局に提出/保存しなければならない(オランダ語か英語)。

国別報告 – 当局への提出義務は、原則として、オランダ居住者が親会社で、連結総収入金額が7億5千万ユーロ以上である多国籍企業グループに適用される。提出期限はグループの事業年度終了後、12か月以内である。

マスターファイルとローカルファイル – 原則として、課税対象となるすべてのオランダ法人に適用されるが、連結総収入金額が5千万ユーロまでの中小企業は、既存の移転価格文書化義務が維持されることになる。マスターファイルとローカルファイルは、法人税申告書の提出期限(2016年については、2017年6月30日)までに、保存しなければならない。

国別報告の義務が果たされない場合、故意・重過失があれば、最大20,250ユーロの罰金が科される可能性がある。更に、3つの文書すべてについて、要件を満たさない場合、刑事制裁 – 最大8,100ユーロの罰金か6か月の禁固(故意でない場合)、あるいは、最大20,250ユーロの罰金か4年の禁固(故意の場合) – の対象になる可能性がある。また、マスターファイルとローカルファイルの保存がない場合、立証責任が転嫁される可能性もある。

【基本情報】

①税務当局

Dutch Tax Authorities (DTA)

②移転価格税制の課税対象

直接又は間接的に、支配関係にある国外関連者との取引

③移転価格文書化義務(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)

I.マスターファイル

  • 条件:企業グループの連結総収入金額が€50 millionを超えている場合はマスターファイルを作成する義務がある。
  • 対象初年度:2016年
  • 期限:税務申告書の期限までにマスターファイルを準備。
  • 使用言語:英語
  • 期限内にマスターファイルを準備しなかった場合は、税務機関が調査の主導権を握り立証責任が転換する。

II.ローカルファイル

  • 条件、期限、使用言語等はマスターファイルと同じ。
  • 企業グループの連結総収入金額が€50 million以下の場合は現行の移転価格文書化を作成する義務がある。

III.国別報告書

  • 条件:企業グループの連結総収入金額が€750 millionを超えている場合は国別報告書を作成する義務がある。
  • 対象初年度:2016年
  • 期限:会計年度終了から12か月内に提出。
  • 使用言語:英語。OECD指定のXML Schemaを導入予定。
  • 代理提出:国別報告書の親会社代理提出を認めている。
  • 事前報告:当該年度が終了するまでに国別報告書の事前報告を行う。尚、初年度の期限は2017年9月1日まで延長されている。
  • ペナルティー:意図的または重大な違反行為が判明した場合は、€20,250以下のペナルティーおよび懲役が課される可能性。

④移転価格課税の時効

原則5年。(悪質な租税回避等の場合12年になるケースもある)

⑤移転価格に関する開示義務

国外関連者間取引が有る場合には、その内容について税務申告書で記載が求められる。

⑥移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)

利益法(取引単位営業利益率法(TNMM)、利益分割法)

⑦移転価格課税に係るペナルティー

通常の法人課税に係るペナルティーが適用され、最大で100%の加算税が課される。

⑧比較対象会社の選定

通常、汎ヨーロッパのベンチマークが認められる。

特に、比較対象会社が独立性を満たしていることについて、厳しく要求される。

使用データベースはAmadeus。

⑨相互協議及びAPA

相互協議及びAPAについて多くの経験を有しており、二重課税の解消も可能である。

⑩使用言語

原則オランダ語だが、文書化は英語でも認められる。

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