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【あ行】


企業グループ内の取引価格のことです。

たとえば、日本の自動車メーカーが米国の販売子会社を通じて自動車を販売する際、日本から販売子会社への輸出(販売)価格が移転価格になります。

日本では基本的に国を跨いだ企業グループ内取引における取引価格のことを指し、この移転価格の設定次第で各国で支払う税金が大きく変化し、企業経営に大きな影響を与えることになりかねないことから、移転価格税制という税制の対象となっています。

企業活動のグローバル化に伴い、国外関連者との取引を通じた所得の海外移転に対処するため、日本では昭和61年度税制改正で導入された税制(租税特別措置法第66条の4「国外関連者との取引に係る課税の特例」)を言います。

導入以降、幾度もの改正を経て、OECDなどと足並みを揃えた制度になっています。

  • 移転価格文書(Transfer Pricing Documentation

さまざまな定義が考えられます。

例えば、「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」(令和2年6月)では事務運営指針3-5に定める移転価格文書を便宜上「移転価格文書」と定義しています。ここでいう移転価格文書はざっくり言えば、ローカルファイルやそれに付随する文書、ないしそれらに準ずる資料のことです。

一方、実務における会話の中などでは、BEPSプロジェクトの勧告を受けて整備された文書化制度において、連結総収入金額が1,000億円以上の大手の多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループ)が作成する文書を指して「移転価格文書」と言ったりもします。ここでいう移転価格文書は、主にBEPSプロジェクトで勧告された「国別報告事項(いわゆるCbCR)」、「事業概況報告事項(いわゆるマスターファイル)」、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(いわゆるローカルファイル)」の3種類の文書を指す用語で、ここに日本が独自に作成を求める「最終親会社等届出事項」を含めたり、含めなかったりします。

ロシアの移転価格税制

【近年の動向】 (2012年5月現在)

ロシアにおける近年の移転価格税制についての動向としては、2011年7月に、2012年1月から適用される新たな移転価格規定の改正がなされた。ロシアの移転価格税制は、OECDガイドライに即するように今後も改正が予定されており、これまでよりもグローバルスタンダードに合わせた形になってきている。

【基本情報】

①税務当局

Federal Tax Service (FTS)

②移転価格税制の課税対象

25%以上の株式を直接又は間接的に保有関係のある国外関連者との取引。

また、社長の兼任、取締役の過半数を占めるなど、実質的に支配関係にある場合にも課税対象となる。

③移転価格課税の時効

3年間。

④移転価格に関する開示義務

国外関連者間取引の内容を、翌年の3月20日までに提出しなければならない。

開示を怠った場合、5,000ルーブルの罰金が課される。

⑤文書化資料の準備義務

2012年度においては、国外関連者間取引の金額が100百万ルーブルを超えた場合、2013年においては80百万ルーブルを超えた場合、移転価格文書化を行わなければならない。

税務調査において文書化資料を求められた際に提出をしなければならないが、提出できない場合のペナルティーは無い。

⑥移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)が適用できる場合には、それらが最も直接的で信頼性の高い算定方法であると考えられている。

CUP法の適用ができない場合、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法)、取引単位営業利益率法(TNMM)、利益分割法の適用も認められる。

⑦移転価格課税に係るペナルティー

2017年以降について、移転価格課税を受けた場合、40%(2014年から2016年については20%)の加算税が課されることとなる。

但し、移転価格文書化を行っていれば、このペナルティーが回避される可能性がある。

⑧比較対象会社の選定

原則としてロシアの比較対象会社を選定することが求められ、欧州の比較対象会社を用いている場合、ロシアの比較対象が無いことを立証しないと税務調査において指摘を受ける可能性がある。

データベースとしては、欧州企業の比較対象を選定する場合AMADEUS、ロシア企業を選定する場合SPARK、RUSLANAが用いられるケースが多い。

⑨関税当局とのコミュニケーション

税務当局と関税当局との連携は限定的である。

⑩相互協議・APA

ロシア当局は相互協議の経験がほとんどなく、相互協議を合意に導くには困難が予想される。

制度的にはユニラテラルAPA、バイラテラルAPA、マルチラテラルAPAともに可能であるが、合意実績はまだ無い。

⑪使用言語

ロシア語。

英語で文書化を行っていても、ロシア語への翻訳が求められる。

南アフリカ共和国の移転価格税制

南アフリカ共和国

【基本情報】 (2012年5月現在)

①税務当局

South African Revenue (SARS)

②移転価格税制の課税対象

20%以上の資本関係のある国外関連者との取引。

但し、実質的な支配関係にある場合も課税対象となる可能性がある。

③移転価格課税に係る更正期限

原則3年。

④移転価格に関する開示義務

申告書上で移転価格に関する開示が求められる。正確な開示がなされない場合、更正期限が延長される可能性がある。

⑤移転価格算定方法

CUP法、RP法、CP法及び利益法(TNMM及びRPSM等)が認められる。

CUP法が優先適用されることとなる。

⑥移転価格課税に係るペナルティー

最大で、追徴税額の200%が加算税として課される。

加算税の%はある程度SARSの裁量にゆだねられており、文書化資料の準備などにより納税者の協力姿勢を示すことができればペナルティーを減額できる可能性がある。

⑦南アフリカ当局の特徴

SARSは特にリスクの限定的な販売業者を注視する傾向にある。

また、SARSと南アフリカ準備銀行(South African Reserve Bank)が連携しており、取引金額の大きいものを監視している。

⑧比較対象会社の選定

南アフリカの企業で情報が利用可能なケースは多くないため、必ずしも南アフリカの企業を選定することは求められない。

データベースについては、SARSは Orbisを使用するケースが多い。

⑨関税当局と税務当局の連携

関税当局と税務当局の連携レベルは高い。

⑩相互協議及びAPA

SARSは相互協議の経験は少なく、二重課税の解消には困難が予想される。

また、APAに関する国内規定は無い。

⑪使用言語

公用語の11ヶ国語が認められているが、実務上は英語が使用されるケースが多い。

オーストラリアの移転価格税制

近年の動向

オーストラリア(豪州)

(2014年12月現在)
2013年の移転価格税制の改定により、オーストラリア税務当局は、2014年後半に初の正式なガイダンスをリリースしました。このガイダンスにはreconstruction規定と、Tax Administration Act (TAA) 1953におけるSubdivision 284-E Schedule 1に対応した移転価格文書の作成方法の2つが含まれています。更にATOは改定後の罰則と、記帳の簡略化の適格基準の運用規定もリリースしました。

基本情報

①税務当局

Australian Taxation Office (ATO)

②移転価格税制の課税対象
オーストラリアにおいて、独立企業の原則と合致しない国境を超えた税制上の優遇措置が与えられている企業に適用。持ち分比率による規定は無く、実質的に価格操作が可能な状況にあるか否かで判断されることとなる。

③移転価格課税の時効
制限無し(取引相手国との租税条約に応じる)

④移転価格に関する開示義務
2012年度よりInternational Dealings Schedule (IDS) を導入し、国外関連者との取引金額、当該取引に係る移転価格算定方法や文書化の有無等、詳細な情報の開示が求められることとなった。
開示を行わない場合、最低25%のペナルティーが課されることとなる。

⑤移転価格課税を受けた場合のペナルティー
25%の加算税が課される。但し、悪質(租税回避の意図、経済合理性の無い取引)な場合は50%の加算税が課されることとなる。

⑥移転価格算定方法
独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法、利益分割法(寄与度利益分割法、残余利益分割法)、取引単位営業利益率法(TNMM)

⑦比較対象会社の選定
原則としてオーストラリアの会社を選定することが求められる。 信頼できる比較対象会社が国内に存在しない場合、外国企業を対象範囲とする。

⑧関税当局と税務当局の関係
他国に比して、関税当局と税務当局の結びつきが強い。

⑨相互協議
オーストラリアは相互協議の経験も豊富であり、二重課税を解消できる可能性は高い。

⑩APA
ユニラテラルAPA、バイラテラルAPA、マルチラテラルAPAともに可。
250百万AUD以上の取引金額の大きなAPAだけでなく、それ以下の規模の取引についてもAPAの合意実績がある。

⑪使用言語
英語

2015年度改正】

2015年末、オーストラリア議会はオーストラリアで活動する多国籍企業の新たな財務報告要件とともに以下の改正を可決した。

  • 新多国籍企業租税回避防止法(MAAL: multinational anti-avoidance law) – 2016年1月1日から適用
  • 租税回避防止ないし移転価格関係の調整に係るペナルティーの増額 – 2015年7月1日以後開始年度に係る調整から適用
  • 国別報告、マスターファイル、ローカルファイルの移転価格文書化要件 – 2016年1月1日以後開始年度から適用

これらの改正はグローバルの所得が10億オーストラリアドル超のオーストラリア及び外国の多国籍企業に適用される。

また、上述の改正を受け、議会は、オーストラリアで活動する総所得(total income)が2億オーストラリアドル以上の非公開会社に対して、特定税務情報を開示することを税務長官(Commissioner of Taxation)に求める、さらなる国内税務透明化法を導入した。なお、既存の法律にも同様の規定があり、公開会社とオーストラリアでの売上高が1億オーストラリアドルを超える外国企業グループのオーストラリア子会社に適用されている。

財務報告 – 大規模グローバル事業体(グローバル所得が10億オーストラリアドル超のグループの一員である事業体)は、オーストラリアでの活動に係る一般目的財務報告の作成が求められる。2016年7月1日以後開始年度からの適用になる。

国別報告、マスターファイル、ローカルファイル

OECDの勧告に沿って、2016年1月1日からの適用になる。オーストラリアに拠点があり、グローバル総収入10億オーストラリアドル超の企業グループは、マスターファイルとローカルファイルをATOに提出する必要がある。

国別報告書、マスターファイル

  • 期限:税務年度終了から12か月以内に提出。
  • 代理提出:代理提出を行う場合は、ローカルファイルにて宣言、国別報告書及びマスターファイルを提出する法人名を報告する義務がある。
  • 罰則:期限内、或いは所定の様式での報告義務に違反した納税者には、525,000オーストラリアドル以下のペナルティーが科せられる。虚偽等が判明した場合は、追加ペナルティー又は刑事罰も適用される可能性。

ローカルファイル

  • ローカルファイルは、現行文書化に加えて作成・提出する義務がある。
  • 期限:税務年度終了から12か月以内に提出。
  • 国別報告書及びマスターファイルの義務の過渡的免除を受けていても、ローカルファイルを提出する義務は残る。
  • 納税者の情報提供量は、関連者間取引額、売上高、移転価格リスク等の項目により2段階に分けられる。

租税回避と移転価格調整に係るペナルティーの大幅増額 – 2015年7月1日以後開始年度の所得に対して、税務長官が行う調整に適用される。ペナルティーは、追加税額の最高100%である。合理的な論拠(reasonably arguable position)があれば、この高いペナルティーは課されないが、移転価格については、適正な移転価格文書が関連年度の確定申告書の提出時までに作成されている場合に限られる。

メキシコの移転価格税制

メキシコ

【近年の動向】 (2012年5月現在)

メキシコは、これまで様々な産業において移転価格調査を積極的に行ってきてきた。近年の調査においては、グループ間役務提供取引(Intra group service transaction)の適正性を問われることが多く、役務提供の実態を示す証拠資料が無いために課税を受けるケースが増えている。また、組織再編や株の譲渡取引についても移転価格調査を積極化している。さらに調査において移転価格文書化資料を要求されるケースも増えており、文書化の重要性が増している。

【基本情報】

①税務当局

Servicio de Administración Tributaria(SAT)

②移転価格税制の課税の対象

直接又は間接的な支配関係にあるグループ企業。特定の持ち分割合は規定されておらず、持分割合が低くても移転価格課税の対象となる可能性はある。

③移転価格課税の時効

原則として5年。

④移転価格に関する開示義務、

国外関連者との取引を行う企業は、「Transfer Pricing Information Return forCross-border Intra-group Transactions」というフォームを提出しなければならない。

但し、マキラドーラによってセーフハーバーとなっている取引については免除される。

⑤文書化の義務

売上高が13百万メキシコペソを超える企業は移転価格文書化を行わなければならない。

文書化をしていない場合の罰金等の規定は無いが、移転価格課税を受けた場合、文書化が行われていれば、ペナルティーが50%軽減される可能性がある。

⑥移転価格算定方法

独立価格比準法(CUP法)、原価基準法(CP法)、再販売価格基準法(RP法)

利益法(取引単位営業利益率法、利益分割法)

現状、ベストメソッドルールではなく、CUP法、CP法、RP法が優先適用される。

⑦移転価格課税に係るペナルティー

申告漏れとなる税額の55%~70%の加算税(損失を計上している場合は30%~40%)が課される。

但し、移転価格文書化資料が準備されている場合、ペナルティーの50%が免除される可能性がある。

⑧比較対象会社の選定

ドイツの税務当局は、ドイツ企業を比較対象とすることを求める傾向にある。

データベースとしては、Dafne又はORBISが使用される傾向にある。

⑨メキシコの特徴

費用分担契約に係る費用負担が法人税法上、損金として控除が認められない。

⑩相互協議及びAPA

租税条約のネットワークは広くなく、相互協議の経験も少ないため、二重課税を解消することは困難である。APAについては、制度上認められているが、合意した実績は必ずしも多くない。

⑪使用言語

原則としてスペイン語(文書化資料については英語でも認められる可能性あり)

アメリカの移転価格税制

アメリカ(米国)

【米国の特徴】(2020年12月1日更新)

米国は移転価格税制の歴史が最も古い国の一つであり、先進的な議論がなされている。相互協議やAPAの経験も豊富であり、移転価格税制に基づいた準備を怠らなければ調査対応もスムーズに行うことができる。

なお、2018年にIRSはTransfer Pricing Examination Process (Publication 5300 (6-2018)を公表し、移転価格調査の設計、執行そして事案の解決に関する指針を示すとともに、特定の事例についての取り扱いを明確している。

また、2018年以降、デジタルエコノミーを前提とした新たな国際課税ルールの原則の見直し(Pillar 1)に関する国際的に議論が盛んになっているが、いわゆるGAFAのようなデジタルエコノミーの尖兵となる企業を多く有する米国は同議論から当面離脱している。このように、米国は歴史的に独自ルールの制定・運用も辞さない国柄でもあり、その動向は移転価格の世界においても注目を集めやすい存在となっている。足元では、政権交代による動向の変化も注目される。

基本情報

①税務当局

Internal Revenue Service (IRS)

②移転価格税制の概要

OECDガイドラインと整合的な制度となっている(IRSの見解)

③課税対象

実質支配基準により判定。(持分割合については規定無し)

④移転価格課税の時効

原則は3年だが、更正所得金額が申告所得の25%を超える場合には6年間遡って課税可能。

また、無申告、悪質な租税回避の場合には更正期限なし。

⑤移転価格の開示義務

Forms 5471、5472及びSchedule UTP により移転価格に関する情報の開示が求められる。

また、費用分担契約を結んでいる場合、適格費用分担契約とするためには費用分担契約書に従った様式を申告書に添付して提出しなければならない。

Forms 5471、5472の提出を怠った場合または虚偽の記載があった場合には10,000USDのペナルティーが課される。(Schedule UTについてはペナルティー規定は無い)

⑥移転価格課税に係るペナルティー

取引ペナルティー(transactional penalty)と正味調整ペナルティー(net adjustment penalty)の二種類のペナルティーが課される。

・取引ペナルティー

取引ペナルティーについては、関連会社間取引価格が適正価格範囲外と判定され、更正後の適正価格比で50%以下と判定される(例えば輸出取引に於ける売値が適正値を下回るなど)か、も しくは200%以上(例えば輸入取引で、関連会社からの購入価格が適正値を上回るなど)変動した場合には、20%の過少申告加算税が課される。また、関連会社間取引価格が適正価格範囲外と判定され、独立企業間価格更正価格との比較で、乖離幅が25%以下もしくは400%以上に変動した場合には、40%の過少申告加算税が課される。

・正味調整ペナルティー

IRSによるIRC482条に関わる課税所得更正額が5百万ドル、もしくは更正後の収入変動率10%どちらか小さい方を超えた場合には、20%の過少加算税が課される。更に、この更正額がそれぞれ、2千万ドル乃至20%どちらか小さい方を超えた場合には、40%の過少加算税が課されることになる。

実務上、取引ペナルティーが課されることは多くないが、正味調整ペナルティーは多くの事案で課されている。合理的な文書化資料を提出期限内に提出し、認められることがペナルティーを回避する唯一の方法である。

⑦関税当局と税務当局の関係

関税当局と税務当局の連携のレベルは高い。

⑧相互協議

米国は相互協議の経験が豊富で二重課税を解消できる可能性は高い。

但し、相互協議の相手国の経験度合いにもよる。

⑨APA

ユニラテラルAPA、バイラテラルAPAともに可。

米国ではAPAの申請件数が多いため、処理が追いついていない状況であったが、2013年から担当者を倍増させ処理を加速させている。

文書化関連情報

①文書化制度の概要(BEPS行動計画13(AP13)との足並み

AP13に係る文書についてはCbCRのみ規定(フォーマットもAP13同様)。連結総収入が850百万USDを超える企業が対象。ただし、CbCRの自動交換に関する多国間協定には未調印。

ローカルファイルに相当する文書化関連規定として、古くから財務省規則§1.482がある(ローカルファイルとは呼称していない)。なお、作成免除基準(売上高の閾値等)は無い。

マスターファイルについては法令上言及無し。

②文書化資料の提出期限

調査が入った場合、要求日から30日以内に文書化資料の提出が求められる。文書化しなかった場合の罰金は無いが、文書化資料があれば、後述の移転価格課税に係るペナルティーを回避できる可能性がある。

③毎年の作成義務

原則として、毎年移転価格文書(≒ローカルファイル)を準備することが求められている(同時文書化)。

③比較対象会社の選定

米国の独立企業の財務データや事業内容等の定性的なデータは充実しており、原則として米国の企業を選定することが求められるが、法令上明確な規定はなく、国外の比較対象企業の選定も容認される。

データベースについてIRSのAPA officeはCompustatを使用している。

④使用言語

英語

「見解の相違」による二重課税の発生

なぜ二重課税状態になってしまうのか

 移転価格税制は、「国家間の税金の取り合い」に関する税制と表現されることもあります。グレーな税制だけに、分析担当者の見解によって答えが変わる可能性もあるため、目的が異なる2者が分析を行えば、見解が相違することとなり得ます。国境を挟んで各国の税務当局が税額を計算した場合、それぞれの算定した税額が異なり、両者が自らの見解で課税を行うために二重課税が生じてしまいます。このように、「見解の相違」が生じるケースは、例えば以下のようなケースが考えられます。

納税者と税務当局の「見解の相違」

 できる限り税務コストを減らしたいと願う納税者と、多くの税収を確保したいという税務当局の間で、「見解の相違」が生じます。特に課税についてノルマを課しているような国の調査官は、納税者の主張をほとんど聞き入れずに強引な課税を行うようなケースもあります。

具体的な事例:

 納税者が、自ら移転価格分析を行い、比較対象会社の利益率と相違ない形で移転価格の設定を行い、海外子会社との取引を行っていたものの、移転価格調査が入り、税務当局が比較対象会社を選びなおしたところ、所得配分に問題があると判断され、課税されるケースもあります。移転価格の設定にあたっては、税務当局がどのように比較対象を選定するかということを考慮したうえで検討を行うことが重要です。

② 国家間の「見解の相違」

 なるべく自国の税収を確保したいという税務当局同士の間でも「見解の相違」が生じます。主に事前確認や、どちらかの国で移転価格課税が生じた後の相互協議の段階で、両国の見解の相違が生じる場合、合意までの期間が長くなるケースもあります。特に新興国においては、移転価格税制の歴史が浅く、理論的な交渉が通じないケースや、日本のような先進国とは市場の状況(衰退市場と成長市場)も全くことなるため、利益に対する考え方に相違があるケースもあり、見解の相違が生じやすい状況にあります。

国家間の見解が相違した事例:

 日本とブラジルとの関連者間取引について、日本で移転価格調査が行われ、日本での納税額が少ない(ブラジルに所得を移転している)として課税をされたケースで、納税者は二重課税を解消するために相互協議を申し立てました。日本とブラジルの税務当局は、あるべき所得配分について数年間協議を重ねましたが、両国は自らの課税権を主張したまま解決に至らず、相互協議は決裂し、二重課税は解消されないままとなっている事案もあります。

 原則として、租税条約を結んだ国家間どうしでの相互協議では、二重課税の解消を目指して協議を行いますが、合意に至る義務は無いため、場合によっては協議が決裂する可能性もあります。

特に新興国との協議は困難なケースが多いため、相互協議によって二重課税を解消できないリスクを認識し、できる限り課税を受けないようにすることが重要です。

コラム:親子間の「見解の相違」

 例えば、海外本社での移転価格課税リスクを回避するために、海外子会社の利益率を下げようとすると、海外子会社のマネジメントが反対するようなケースもあります。海外子会社としては、自らの会社の利益が潤沢な方が、事業活動もしやすいということもあるかと思われます。また、親会社所在国での移転価格課税リスクを下げるということは、子会社所在国での移転価格課税リスクを上げるということにつながるため、自らが課税対象となるような変更には反対することは当然かもしません。このような場合、海外子会社のマネジメントが別途コンサルタントを雇って親子間のコンサルタントを介して議論がなされることもあります。

 移転価格課税リスクをどのように管理するかは、グループの方針によりますが、本社主導の移転価格整備にあたっても、子会社等から反対意見がでる可能性があることについても留意が必要です。移転価格の整備は、このような様々な関係者との調整を行いながら進めていくこととなります。


合弁相手との「見解の相違」

 海外子会社が合弁会社である場合、その海外子会社の利益率を下げるような価格設定(すなわち日本本社がより多くの利益を回収するような価格設定)に変更する場合、合弁相手としては、利益の取り分が減ることとなるため、反対してくることが想定されます。

 合弁契約後にロイヤリティ料率や取引価格の条件設定を変更することは困難なケースが多いのが実情です。合弁会社の設立にあたっては、事前に移転価格の問題が生じないように契約内容を検討する又は合弁相手の了解を得ておくことが重要であると思われます。

消えない移転価格リスクと中小・中堅企業の対応

 上記のとおり、移転価格について見解の相違が生じた場合、両者の計算結果は異なってくることになり、結果として二重課税状態が生じます。従って、納税者が適正だと信じて価格設定を行っていたとしても、相反するインセンティブを持った税務当局が検証した場合、異なる結論となり、課税を受けるリスクはどうしても残ってしまいます。また、日本の税務当局の指導に従って、移転価格の設定を行ったとしても、相反するインセンティブを持つ取引相手国の税務当局が異なる結論を出す可能性はあり、海外子会社側で課税されるリスクは残ってしまいます。

が上記のように、移転価格税制は分析者に一定の裁量が与えられていることで、その算定方法自体が不安定な面を抱えていることに加え、様々な関係者が登場することから、後述する「事前確認」を取得しない限り、移転価格リスクをゼロにすることはできません。一方で、特に中小・中堅企業においては、それほど移転価格にコストと人材を投入することも難しため、事前確認の取得が実質不可能ということを前提とすると、いかに移転価格リスクを把握し、管理していくかが重要であると考えられます。


移転価格税制上の所得配分の考え方

第三者間での所得配分の基本概念

 第三者間取引における価格の設定は、例えば、高度な技術を有し、多くの作業工程をかけて製造したような製品は通常高いマージンを乗せて販売されますし、原材料からほとんど手をかけずに販売されるような卸売りの場合には、通常小さなマージンを乗せて薄利多売により利益を得ることが一般的かと思われます。また、在庫リスクを負う場合の方がマージンが高く、在庫リスクを負わない場合の方がマージンが低くなるのも一般的でしょう。これは、買い手の立場から考えてみれば、単純な作業に高いマージンが乗るようであれば、自ら行うという選択を取ることとなり、高付加価値で自ら行うことができないような活動については、高いマージンが乗ることはご理解いただけるかと思います。

 移転価格税制も、このような第三者間取引価格設定のメカニズムを基本としており、販売者が果たす活動内容(機能)、負担するリスク、所有する無形資産に見合った利益を得るはずだという前提を置いています。実際には、必ずしもそうならない場合もありますが、税務調査官を含めた移転価格の実務家はこのような考えを持っています。

移転価格課税リスクを見る第一ポイント

 上述のように、移転価格税制は、関連者間取引に係る価格を独立企業間価格に引きなおして税額を計算することを目的としていますが、実際の価格自体が適正か否かを検証するには時間と労力がかかります。

 税務当局としては、取引価格の操作を通じて国外に所得を移転されていることを危惧しているため、税務調査の初期段階においては、国外関連者と日本の親会社の利益水準を見ることで、利益の配分が著しく偏っていないか(国外関連者に所得が大きく配分されすぎていないか)を見ることで、移転価格税制上問題がある可能性を判断します。ここで、国外関連者の利益率が低ければ、詳細な調査を行っても、日本に帰属させる所得が無いため、そこで調査を終えるケースもありますが、国外関連者の利益率が高ければ、その国外関連者に所得を移転している可能性があるとして、詳細な調査に進展する可能性が高くなります。

世界各国の移転価格税制

移転価格税制は、国家間の所得配分を司る税制であるため、移転価格税制の整備を行わなければ、自国で納めるべき税金が国外へと移転してしまう恐れがあるため、各国は移転価格税制の整備を行っています。移転価格課税の対象(持分割合の規定等)や時効の期間等、各国それぞれ微妙な規定の違いはありますが、独立企業原則に基づいた移転価格に対する根本的な考え方は概ね一致しており、移転価格の算定方法もほぼ同じ内容となっています。特にOECD加盟国は、OECD移転価格ガイドラインという共通のガイドラインにしたがって移転価格税制を制定しており、共通の基盤にたって議論ができるようになっています。

 ブラジルなど、例外的に独自の算定方法を設けている国もありますが、基本的には、日本の移転価格税制に従って移転価格の設定を行えば、概ね課税リスクの低減は実現できるものと考えられます。

ただ、課税の執行状況や、移転価格税制の理解の程度は国によって異なる面はあります。例えば、日本や米国は移転価格の歴史も古く、経験値も高いため、税務調査においても理論的な議論ができますが、東南アジアのように移転価格の歴史が浅い国では、まだまだ税務調査官の知識が十分とは言えない面があり、更に調査官に暗黙の課税ノルマがあるような国では、強硬な課税を行うケースもあるため注意が必要です。

「相場価格」による価格設定

移転価格税制の基本概念 -独立企業間価格とは-

 移転価格税制は、取引価を自由に設定できる国内外でのグループ間取引を、独立企業間で取引される価格に引きなおして課税所得を計算することで、国外への所得移転を回避し、各法人がその所在国で適正な納税を行うことを目的とした税法です。

 言い換えれば、独立企業間で取引される価格で関連者間での取引価格を設定すれば、適正な所得配分がなされているとみなされます。

 そう考えると、通常独立企業間で取引される商品の「相場」価格で価格設定を行えば、問題は生じないように思われるかもしれません。確かに、海外のグループ会社に売る商品と全く同じ商品を同じ国の第三者に販売していれば、その価格と同じ価格を設定すれば、移転価格の問題はある程度回避できるかもしれません。しかし、商品の取引価格というものは、商品の性質や特徴、ブランド品や価格戦略、販売量、販売先等の取引条件等によって、同じ機能を果たす商品でも、価格は様々です。例えば「テレビ」といっても、ブラウン管式か液晶・プラズマか、地デジ対応か、録画機能の有無、どのブランドか、日本で売るか、中国で売るか、発売時期等で、価格は大きく変わってきます。

 このため、実務上、商品価格そのものを比べて移転価格が適正か否かを判断することができるケースはあまり多くありません。

移転価格課税に租税回避の意図の有無は関係無し

 移転価格税制は、租税回避の意図があったかどうかに関わらず、移転価格税制に規定する算定方法の結果、所得移転があると判断された場合には課税の対象となることに注意が必要です。従って、会社が適正だと思って取引を行っていたとしても、移転価格税制の規定に基づく算定結果と大きく異なっていれば、課税対象となってしまいます。

 会社の経理担当者からすると、虚偽や隠ぺいなど不正な取引を行っていなければ追徴課税を受けることは無いだろうと考えている方も多いのではないかと思われます。また、海外子会社等との取引価格については、相場的におかしな価格でなければ問題にならないと考えている方も多いのではないでしょうか。

しかし、どれだけ言い訳をしても、移転価格税制上問題のある取引結果となっていれば、課税を防ぐことはできません。企業が積極的に、適正な移転価格運営を行わなくては、課税リスクは潜在的に累積していくことに留意が必要です。

税理士事務所まかせでも課税される

 経理担当者の方々にとっては、顧問先の税理士事務所にまかせておけば、追徴課税を受けることは無い、または課税されても税理士事務所の責任と考えている方も多いかと思います。また、税理士事務所としても、移転価格の専門知識・経験が無い場合、会社の数字に虚偽や隠ぺいが無ければ追徴課税を受けることは無いと考えているケースも多いものと思われます。

 しかし、上述の通り、移転価格税制の場合は、租税回避の意図の有無にかかわらず課税を受けます。税理士事務所は、会社の経理からあがってきた数字を基に申告書の作成を行いますが、通常、会社の取引価格自体が適正であるかどうかについてまでは踏み込んでアドバイスは行いません。また、移転価格税制は非常に特殊な分野であるため、税理士事務所の申告書作成担当者も、その課税リスクに気付いていないケースも多いものと思われます。

 また、大手税理士法人などでは、移転価格部門を法人内に抱えている場合もありますが、申告書を作成する部門と移転価格コンサルティング部門は全く別であり、申告書の作成担当者は移転価格についての知識が十分ではないケースも多いかと思います。このような場合、ワンストップで対応できているだろうと思っていても、移転価格リスクについて誰も気づいていないケースは多いものと思われます。

 実際に、私も大手税理士法人に勤務時代、申告部門の担当者が、会社様から、「海外子会社との取引について移転価格税制上問題あるんじゃないか?」と聞かれて初めて問題認識し、移転価格部門に問い合わせが来るケースも多々ありました。このようなケースでは会社担当者が気付いたからよかったものの、税理士事務所まかせにしていたら、課税されるまで気付かなかったものと思われます。

 このように、移転価格の問題は、移転価格の問題に気付いていない経理担当者と申告を主業務とする税理士事務所担当者の間で、誰もリスクに気づかないまま放置されることにあります。税務調査で指摘されて初めて移転価格コンサルティングの依頼を受けるケースも多いのですが、過去の取引については修正することができないため、課税をゼロで済ませるのが難しい案件が多いのも実情です。

 会社の経理担当者、税理士事務所の申告部門の人間も、国外関連者との取引があれば、必ず移転価格の問題が生じることについて、リスク意識を持つことが重要であると思われます。