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移転価格税制の課税対象が中堅企業にシフト

 以下のグラフを見ると分かる通り、国税局における移転価格専門官の増員に伴って、過去から移転価格の課税件数・金額ともに増えてきました。ここで特徴的なのが、課税件数は段階的に増えているものの、ここ数年課税金額は大幅に小さくなっています。これまで、大型の課税事案が多かったため、課税件数と課税金額が比例して増加していましたが、平成20年ごろから、課税対象が中小・中堅企業へとシフトし始めていると考えられます。

【図表】移転価格課税金額と課税件数の推移

*出所:国税庁ホームページの情報から筆者作成。

 新聞記事でもたびたび記載されるような数十億から数百億円の大型の課税事案が目立ちますが、実際にはもっと小額の取引についても課税されているのが現状であり、さらに移転価格の問題を「寄附金」として課税しているものを含めると、数百万円~数千万円の課税事案も非常に多いものと思われます。

 中小・中堅企業にとって、移転価格の問題は、もはや対岸の火ではなく、今まさに手を打たなければならない経営課題とも言えます。移転価格調査が入り、課税を受けた場合、数百万円~数億円の追徴課税を受ける可能性もあり、場合によっては営業活動に必要なキャッシュフローをも脅かしかねないからです。

 移転価格課税の時効は6年間であり、問題を先送りすれば、課税リスクは累積されていき、移転価格調査が入った時には既に遅いケースも多々あります。我々のようなコンサルティング会社が調査対応に入り、移転価格の理論を駆使して課税を防ぐことができるケースもありますが、あくまで会社の実態からして適正であると言えるものに対して税務当局が強引な課税を行おうとするような場合に有効であって、もともとの移転価格設定が明らかに説明のつかないようなレベルであれば課税を防ぐことは非常に困難となります。

 移転価格の整備について何も手を打っていない状況であれば、少なくとも潜在的な課税リスクの大小を把握しておくことが重要です。

課税を受けた場合の社会的信頼への影響

 移転価格課税は、租税回避の意図にかかわらず、課税される可能性があります。従って、企業としては、適正に納税しているつもりでも、税務調査によって、移転価格税制上問題があると判断されれば、課税を受けることとなります。

 課税を受けた場合、新聞などのマスメディアでは、「株式会社○○、○億円申告漏れ」や「株式会社○○海外所得移転」など、あたかも悪質な租税回避を行ったような印象を与える報道のしかたをされるケースも少なくなく、移転価格税制の性質を理解していない一般の消費者等にとっては、税金逃れをした会社という印象を与える可能性もあります。一般消費者を相手とする企業によっては、移転価格の問題は、追徴課税のリスクよりも、ブランド価値の毀損リスクの方が大きい場合もあります。

海外への活動拠点の移転と移転価格課税リスクの発生

市場環境の変化と海外への活動拠点の移転

経済活動の国際化の進展は説明するまでもなく、10年前と比較して、インターネットの普及による情報革命もあいまって、物流、金融、法、人材、言語等、全ての面において国家間の壁は低くなり、大企業だけでなく中小、中堅企業においても海外進出する企業の数は飛躍的に増えてきました。

特に衣料や食品等の生産工程が単純な商品については、中国やアジアの新興国での安価な人件費を利用して、低価格化が進行しており、価格競争は厳しさを増すばかりです。日本を製造拠点とする企業にとっては、超ハイテクノロジー又は超高品質により勝負する他、これからの競争に勝ち抜いていくのは難しい状況もあり、海外に製造拠点をシフトする会社は増える一方となっています。

特に、中国を中心としたアジア地域への製造拠点のシフトは顕著となっています。

【海外法人数推移】

活動拠点の国外シフトと移転価格問題の増加

海外拠点の設立や、既存の有形・無形の資産を海外へと移転させる時、また、日本の拠点と国外の拠点で取引を行う場合、移転価格の問題が生じます。例えば、海外に販売子会社を設立する場合は、日本本社と海外販売子会社との間の取引価格の設定が移転価格に即しているかが問題となります。また、生産拠点を海外へ移転する場合では、海外での製造拠点の運営にあたっては、日本でつちかった製造ノウハウ等が使用されることが多いものと考えられますが、当該製造拠点から、ロイヤリティ等で無形資産の対価を回収しなければ、日本で移転価格課税又は寄附金課税を受けるリスクが生じることを認識しなければなりません。

いずれにしても、国際展開を行う企業にとっては、有形資産・無形資産を問わず、国際間取引を行えば、必ず移転価格の問題が生じるということを念頭に置かなくてはなりません。

より積極的な国際税務プランニングへ

日本の企業は欧米企業と比べて意識が低いといわれて久しいですが、近年では移転価格税制を理解し、税務コストに対する意識の高い企業は、移転価格税制に抵触しないように、無形資産等を国外へと移転させ、実効税率の低減に成功している会社もあります。

今後の国際展開の本格化にあたって、組織構造や国際間の取引価格の設定方針について、移転価格税務対応に真剣に取り組まなくては、多額の課税リスクを負うこととなるばかりでなく、実効税率低減の機会を失うことにもなりかねません。

まずは、移転価格税制の本質を理解し、今後の対応を検討することが重要であると考えられます。

課税リスクの把握・管理の必要性

移転価格税制に即した形で価格設定を行っていくには、専門家としての高度な知識と経験を要しますが、それ以前に、自ら(又はクライアント)が、移転価格課税リスクにさらされていることについて、十分に認識することが必要です。後述しますが、移転価格税制という言葉自体はある程度浸透してきたものの、まだまだ自らの潜在的な課税リスクに気づいていない納税者が多いものと考えています。

まずは、移転価格課税リスクがどのように生じるか、また、どれくらいの課税リスクになるのかを十分に把握し、その上で対策を検討することが重要と考えられます。

移転価格税制上の「重要な無形資産」と「独自の機能」

 平成23年度の税制改正前においては、上記の残余利益(超過利益)が「重要な無形資産」に起因するものとされていましたが、改正後の規定では、「独自の機能」という表現に改められています。これまで移転価格税制上の無形資産は、特許やブランドのみではなく、もっと広い概念として捉えられてはいましたが、「独自の機能」という語になったことで、無形資産以外のものも含まれることとなり、比較対象会社と異なる機能や収益の発生要因がすべてこの「独自の機能」の中に含まれることとなったように思われます。このことにより、比較対象会社の利益率を超える部分についてはすべて、なんらかの「独自の機能」によるものとして判断され、結果として残余利益分割法を用いられるケースが多くなることが予想されます。しかし、実際の分割にあたっては、納税者の「独自の機能」というよりは、寡占状態による競争の少なさや、需給ギャップなどによる市場の要因により高い利益率を計上しているケースもあり、その状況が納税者と比較対象会社の間で異なる場合においても「独自の機能」として片づけられる恐れがあります。このような市場の状況は、第一段階の「基本的利益」の計算において反映されるべき性格のものであるため、「基本的利益」の中で解決すべき問題と、「残余利益」の中で解決すべき問題を明確に認識したうえで、残余利益分割法を適用することが望まれます。

残余利益分割法(RPSM)の適用にあたっての留意点

 残余利益分割法は、国外関連者間取引連結で生じた利益について、まず各関連者に基本的な活動(製造活動や販売活動)による利益を配分し、残った利益(残余利益・超過利益と呼ぶ)を各関連者の当該残余利益に対する貢献割合で配分し、基本的利益と配分された残余利益の合計額により適正な利益配分を計算する方法です。移転価格税制上、比較対象会社の利益率を超える部分は、特殊な技術やブランド等の「独自の機能」によって生じると考えられており、「独自の機能」を用いない場合に得られる基本的利益を配分後の残余利益を、そのような「独自の機能」構築への貢献割合に応じて分割することとされています。無形資産の分割割合については、研究開発費やマーケティング費用等、当該取引において残余利益(超過利益)が生じる源泉となった活動費用の割合等で分割されることとなります。

【利益分割法についての課税リスクのポイント】

 利益分割法の適用にあたっては、分割割合が少し変わるだけで、算定結果が大きくブレるという特徴をもっています。また、分割割合の選定にあたって、「利益に対する貢献」とは何かについては、主観的な判断にならざるを得ず、どの費目に基づいて分割割合を算定するかについて、税務当局と見解の相違が生じやすい算定方法です。


 残余利益分割法を例にとると、超過利益が何によって生じたかについては、どうしても主観的な判断となってしまいます。例えば、日本でコア技術を開発し、海外の現地法人が現地マーケットに合わせて現地化改良をしているようなケースにおいては、日本の当局からすると、重要なのは日本のコア技術であって、現地化対応などは、比較対象となる独立企業でも行っているため、残余利益の配分に値しないと主張することが考えられる一方で、納税者からすると、現地化が非常に重要で、日本のコア技術だけでは現地事業の成功はありえ得ないという主張も考えられます。これについても、どちらが正しいとは一概には言えないものと思われます。また、利益分割要因として認められる活動内容が決まったとしても、その分割割合を計算するにあたっては、どの費目を含めるかで、見解の相違が生じます。例えば、日本のコア技術の開発と、現地の生産技術開発により、グループで超過利益が発生したと認められた場合、分割割合の算定にあたって、日本の研究開発費のうち、基本研究に係る費用や試作品に係る費用も含めるのか否か、現地の生産技術開発のうち、アイデアを提案した現場の工員の給与や本社からの出向者の給与に係る費用は含めるか等も議論になります。


 また、日本の研究開発と、現地のマーケティング活動によるブランディングにより、超過利益が生じていると認められる場合、日本の研究開発費と現地のマーケティング費用の貢献割合が、単純に支出金額の割合で良いのか(研究開発に投じた1円とマーケティングに投じた1円が同じ貢献価値があるのかどうか)についても議論がり、活動内容がことなる場合になにがしかの係数を乗じて調整計算すべきという議論もあります。


 このように、利益の分割割合の算定にあたっては、様々な議論があり、算定者の意図や考えによって結果が異なることについても、留意が必要です。


 この解決策としては、超過利益に貢献していることについての説明が合理的か否かを基準として、税務当局から認められると考えられる可能性が高いものと、認められる可能性が低いものに分類し、それぞれの場合でシミュレーションし、見解の相違が生じた場合のリスク認識をしたうえで、どれを納税者のポジションとしての分割割合とするかを検討しておくことも有用かと考えられます。

残余利益分割法を採用していた場合の課税事例

 ある機械メーカーは、日本でコア技術の研究開発を行い、ドイツの製造子会社で現地の仕様に合わせるための設計の改良を行っていました。また、現地の製造子会社は、生産技術の改良を行っており、その結果大きくコストを削減することに成功していました。会社としては、日本の親会社のコア技術と現地子会社の現地化改良、生産技術の開発は重要な無形資産であると考え、残余利益分割法により移転価格の設定を行っていました。

 その後、税務調査が入り、ドイツとの取引について調査が行われました。現地子会社の活動実績から、生産技術の改良は超過利益(残余利益)に貢献する活動として認められましたが、現地化改良については、通常の製造業者であれば当然行うものとして、否認されました。その結果、残余利益の分割割合が変わり、課税をうけてしまいました。

コメント:残余利益分割法の適用にあたって、残余利益の発生に貢献した活動にはある程度主観が入らざるを得ません。自らが採用した算定方法を認めてもらうには、各関連者の活動が残余利益の発生に貢献しているということを、客観的なデータや具体的な資料で立証できるよう準備しておくことが必要です。

寄与度利益分割法の適用にあたっての留意点

 寄与度利益分割法は、国外関連者間取引連結で生じた利益を、各関連者の貢献度合いに応じて分割し、適正な所得配分を計算する方法です。貢献割合の算定には、人件費の比率や、有形固定資産額の比率等、貢献度合いを測るなんらかのファクターの支出額の割合(総費用割合や営業資産の割合等)で分割するケースが多いように思われます。なお、分割割合の算定にあたっては、当該支出項目と利益との相関関係が示される必要があり、そのファクターを使用することが合理的であることを説明できる必要があります。

【寄与度利益分割法の特徴】

 ポイントとして、この方法の欠点は、内部情報のみに基づく算定方法であるため、客観性に乏しく、場合によっては配分割合を恣意的に選定することも考えられるため、信頼性は相対的に高くはありません。第三者間では通常行われないような特殊な事業活動や、何らかの理由で比較対象を選定することが不可能な場合等に用いられます。また、補足的な分析として、その他の方法の二次分析として使用されるケースもあります。

寄与度利益分割法を適用していた場合の課税事例①

 あるグローバルな専門商社が、顧問税理士との相談のうえ、グローバルの移転価格の設定を寄与度利益分割法に基づいて行っていました。寄与度利益分割法を採用した理由は、「法令上定められた算定方法だから」ということでした。顧問税理士も移転価格コンサルティングの経験は無かったものの、移転価格税制の法令を読み、寄与度利益分割法の存在をしっていたため、これを適用することを勧めていました。本音としては、顧問税理士が比較対象会社を選定するデータベースを持っていなかったこと、また比較対象会社を選定するノウハウも持っていなかったこと、また、会社としても毎年の比較対象会社のアップデートにコストがかかることを嫌がったことで、比較対象会社を必要としない寄与度利益分割法を採用していました。

 その後税務調査が入り、寄与度利益分割法を採用した理由を問われ、理論的な回答ができず、結果として取引単位営業利益率法が最も適した算定方法として採用され、課税を受けました。

コメント:寄与度利益分割法は、独立企業のデータを使用しない算定方法であり、客観性に乏しいという根本的な欠点を持っています。比較対象会社が選定できないような非常に特殊な状況でなければ認められるケースは少ないため、適用にあたっては慎重な判断が必要です。

寄与度利益分割法を採用していた場合の課税事例②

 ある特殊な塗料を製造するメーカーN社は、日本本社で研究開発活動を行っており、日本から調合済みの原料を日本からオランダ子会社に輸出し、オランダ子会社で添加物を加えて加工することで完成品とし、欧州マーケットで販売を行っていました。オランダ子会社は、自ら研究開発は行っておらず、最終製品への製造工程のノウハウについては、日本本社からの出向者を通じて提供されていました。

N社は、グループ間の所得配分にあたって、取引単位営業利益率法の適用を検討しましたが、オランダにおいて塗料メーカーの財務データを入手できなかったため、寄与度利益分割法を採用し、両者の総費用の割合により利益の分配が行われるように価格設定をしていました。

 その後、移転価格調査が入り、調査官が検証を行った結果、無形資産の供与があるにも関わらず、総費用の割合で寄与度利益分割法を適用することには問題があるとして、寄与度利益分割法を否認し、ドイツに所在する塗料メーカーを比較対象会社として取引単位営業利益率法により課税を行いました。

コメント:寄与度利益分割法の適用にあたって、上記の例のように総費用割合で利益分割を行う場合、研究開発費の投下金額と、間接部門や労働者の賃金などへの投下費用は同価値で利益配分が行われることとなります。例えば、製造子会社の総費用が労働者の賃金50、本社の総費用が研究開発費が50だったとすると、両者の利益の配分割合は50:50となっていまいます。しかし、一連の取引から生じた利益の源泉が、技術にあるとすると、利益への貢献度合いは研究開発費の方が大きくなるべきですし、研究開発費は過去から積み上げたものであるため、一期の費用割合で計算上反映させるのは困難です。一方で、投下費用の価値の違いを計算上反映させるために両者の価値を換算しようとしても、どのようなウェイト付をするかが問題となり、結果として適正に計算することは困難となります。

このため、特に無形資産取引が絡む取引について寄与度利益分割法を適用することは非常に困難であり、ベストメソッドルールのもとにおいては、完璧な比較対象がなかったとしても、多少の比較可能性をギブアップして取引単位営業利益率法を適用すべきという結論も十分にあり得ます。寄与度利益分割法は、外部情報(比較対象のデータ)を使用しないため、客観性が乏しく、必ずしも認められる可能性は高くないと考えておいた方がよいかと思われます。

比較利益分割法とは

 比較利益分割法は、国外関連者間取引連結で生じた利益を、類似の独立第三者間での利益配分割合に基づいて分割し、適正な利益配分を計算する方法です。OECDガイドラインでは、ジョイントベンチャー取極め(例えば、石油・ガス産業における開発プロジェクト、製薬業界の提携、共同マーケティング又は共同販促に関する取極め、独立した音楽レコード会社と音楽家との間の取極め、金融サービス分野における非関連者間の契約など)を例示しています。

 ポイントとしては、このような類似の状況にある第三者間の利益配分割合の情報を入手することは困難であり、実務上あまり用いられることは無いのが実情です。

取引単位営業利益率法を採用していた場合の課税事例

 ある電気機器造業者が、中国に製造子会社を設立しました。

当該製造子会社は、日本から技術供与を受け、原材料は現地で調達し、現地で販売を行っていました。日本に支払う無形資産の対価として、業界での相場に基づきロイヤリティ料率をA%と設定していました。

 それから数年後、中国でのマーケットが拡大し、中国製造子会社の利益率は上昇していきましたが、ロイヤリティ料率はA%のままで事業を行っていました。

その後、日本で税務調査が入り、過去数年分について当該中国子会社の適正な所得水準を検証するため比較対象会社を選定したところ、選定された比較対象会社の利益率と製造子会社の利益率が大きく乖離しており、ロイヤリティの取り漏れとして課税されました。

コメント:移転価格税制上、ロイヤリティ料率の算定は、業界での相場や他の類似契約における料率との比較分析により設定を行う方法はあまりとられず、実務上は現地法人の収益性をベースに料率を算定する方法が主流となっています。相場的に十分と思われる料率を回収していたとしても、移転価格税制上は所得移転とみなされるケースも少なくないため、特に利益率の高い海外子会社については、対価の回収漏れを指摘される可能性がないか、注意が必要です。

固定ロイヤリティと変動ロイヤリティ


 ロイヤリティの支払いは、毎年固定の料率を売上高に乗じて算出された金額を支払うことが一般的かと思われます。 しかし、移転価格税制は、関連者間取引を独立企業間の条件で行うことを目的とするものではありますが、ロイヤリティの算定にあたっては、固定ロイヤリティの考え方はあまり取られません。

 企業担当者にとっては、ロイヤリティ料率を毎期変動させることについて違和感があり、実務上も手間がかかるため、ロイヤリティ料率を毎期変動させることに抵抗がある企業が多いのも事実です。

しかし、よく考えてみると、独立企業間では、技術供与によって利益が出なければ、ロイヤリティの減額を使用者側が交渉するでしょうし、使用者の取り分があまりに大きくなれば、無形資産の所有者はロイヤリティ料率を上げることを交渉するでしょう。関連者間ではこのような交渉が行われないため、固定のロイヤリティ料率を永続的に適用することにはやはり所得配分上問題が生じ得ます。

実務においては、社内ルールをきちんと設定し、経理実務と移転価格税制の遵守を同時に達成できるような料率設定をしていく必要があるものと考えられます。

取引単位営業利益率法の適用にあたっての留意点

取引単位営業利益率法(Transaction Net Margin Method, TNMM)とは

 取引単位営業利益率法は、国外関連者間取引に係る関連者のどちらか一方を検証対象者とし、その者と類似の比較対象会社を選定し、その比較対象会社の営業利益率との比較を行うことで所得配分が適正に行われているか(移転価格が適正に設定されているか)を検証する方法です。


 移転価格税制上、営業利益をベースとした検証では、比較可能性について、製品の特徴の差異や機能・リスクの差異について影響を受けにくく、その他の方法に比べて比較対象を選定しやすいと考えられており、近年では最も多く用いられる算定方法であると言えます。


 この算定方法は、営業利益率をベースとした検証方法であることから、例えば海外の製造子会社に対して、部品の供給と技術の供与を同時に行っているような場合において、製造原価に含まれる部品取引と、販売管理費に含まれる支払ロイヤリティの両者を一緒に検証することができるという利点を持っています。近年の国外関連取引では、何らかのノウハウ・技術の供与が行われるケースが多いということも、この方法が採用されるケースが多い理由でもあります。

【課税リスクのポイント】

 他の方法に比べて比較対象会社が選びやすくなる半面、選択肢も増えることから、選定を行う者によって最終的に選ばれる比較対象会社のセットが異なるケースが多いものと考えられます。従って、納税者が選んだ比較対象会社と税務当局が選び直した比較対象会社で利益率の状況が大きくことなることもあり得ます。理論的には、比較可能な独立企業であれば、同様の利益水準となっているはずですが、実務上は、そのような比較可能性の十分な比較対象会社ばかりが選定できるとは限らず、比較対象会社の選定方法によって、あるべき利益水準が大きく異なる場合がある点について留意が必要です。また、適用しやすいが故に、どの算定方法が最も適切な算定方法かを十分に検討せずに、取引単位営業利益率法を適用しているケースも多いように思われ、場合によっては算定方法自体を否認される可能性もあります。本当に取引単位営業利益率法が最適な方法であるか、十分に検討することが必要です。

【取引単位営業利益率法の適用にあたっての留意点】

 上述のとおり、営業利益ベースの検証は、製品や機能・リスクの差異の影響を受けない代わりに、重要と供給のバランス等の市場の状況や、稼働率等の状況に影響を受けやすいという特徴を持っています。

【稼働率の差異は営業利益ベースの算定では大きくなる】

 取引単位営業利益率法の適用にあたっては、比較可能性の要件が低いと認識されている面もありますが、このように営業利益に影響を与える要素を十分に加味する必要があり、調整計算が必要な場合もあります。必ずしも、基本三法よりも容易に用いることができると考えるべきではありません。やはり、いかなる算定方法を採用するとしても、適用にあたっては、慎重な分析と検討が必要でしょう。

原価基準法を採用していた場合の課税事例

 ある計測機器メーカーは、米国に製造子会社を設立し、当該製造子会社が製造した製品を、日本に輸入して日本市場で販売を行っていました。


 当該製造子会社から日本本社への取引価格の設定は、製造原価+30%としていました。この30%は、米国の比較対象会社を選定し、その粗利/製造原価率が30%であったため、これをベンチマークとして設定していました。しかし、販売不振により生産数量が低下し、赤字を計上していました。


 その後、米国で、米国の製造子会社に税務調査が入り、日本本社との取引が調査の対象となりました。米国の税務当局は、米国製造子会社とベンチマークとした比較対象会社では比較可能性が無いと主張し、米国製造子会社の経理担当者は比較可能性があるということを十分に説明ができず、納税者が選定していた比較対象は否認されてしまいました。


 最終的に、米国税務当局が、米国の第三者製造企業をベンチマークとして選定しましたが、原価基準法の適用に足る比較可能性の高い会社は無かったため、取引単位営業利益率法を適用することとし、選定された比較対象会社は営業利益を計上していたため、その差額を課税されました。

コメント:一般的に、受託製造を行うような製造業者は、赤字を計上するリスクを負わない代わりに、薄いマージンを計上するものと考えられています。すなわち、生産量が少ない場合にも、最低限固定費をまかなう程度のマージンが保証されるべきと考えられています。特に中国においては、来料加工業(単純な製造業)を行う中国子会社が赤字を計上すべきではないと税務当局の方針として公表されています。実態経済においては、営業利益が保証されるようなことはありませんが、子会社の設立にあたっては、計画的に親会社からの受注が見込まれていることからも、赤字を計上している場合、税務当局から問題視される可能性が高いと認識すべきと思われます。


 もちろん、移転価格以外の要因による赤字の計上について、正当な理由があれば認められる場合もあるため、一概に赤字が悪いという訳ではありませんが、税務当局にその理由を説明できるように準備しておくことが重要です。理由がつかないようであれば、一定の利益を計上できるよう価格の変更を検討すべきと考えられます。

原価基準法を採用していた場合の課税事例

 ある計測機器メーカーは、米国に製造子会社を設立し、当該製造子会社が製造した製品を、日本に輸入して日本市場で販売を行っていました。


 当該製造子会社から日本本社への取引価格の設定は、製造原価+30%としていました。この30%は、米国の比較対象会社を選定し、その粗利/製造原価率が30%であったため、これをベンチマークとして設定していました。しかし、販売不振により生産数量が低下し、赤字を計上していました。


 その後、米国で、米国の製造子会社に税務調査が入り、日本本社との取引が調査の対象となりました。米国の税務当局は、米国製造子会社とベンチマークとした比較対象会社では比較可能性が無いと主張し、米国製造子会社の経理担当者は比較可能性があるということを十分に説明ができず、納税者が選定していた比較対象は否認されてしまいました。


 最終的に、米国税務当局が、米国の第三者製造企業をベンチマークとして選定しましたが、原価基準法の適用に足る比較可能性の高い会社は無かったため、取引単位営業利益率法を適用することとし、選定された比較対象会社は営業利益を計上していたため、その差額を課税されました。

コメント:一般的に、受託製造を行うような製造業者は、赤字を計上するリスクを負わない代わりに、薄いマージンを計上するものと考えられています。すなわち、生産量が少ない場合にも、最低限固定費をまかなう程度のマージンが保証されるべきと考えられています。特に中国においては、来料加工業(単純な製造業)を行う中国子会社が赤字を計上すべきではないと税務当局の方針として公表されています。実態経済においては、営業利益が保証されるようなことはありませんが、子会社の設立にあたっては、計画的に親会社からの受注が見込まれていることからも、赤字を計上している場合、税務当局から問題視される可能性が高いと認識すべきと思われます。


 もちろん、移転価格以外の要因による赤字の計上について、正当な理由があれば認められる場合もあるため、一概に赤字が悪いという訳ではありませんが、税務当局にその理由を説明できるように準備しておくことが重要です。理由がつかないようであれば、一定の利益を計上できるよう価格の変更を検討すべきと考えられます。